<社説>働き方改革法成立 労働者置き去りの悪法だ

 この法律が掲げる「働き方改革」とは誰のための改革なのか。政府は今国会の最重要課題と位置付けた働き方改革関連法案を成立させた。

 法案の目的は残業抑制や過労死防止だったはずだ。しかし過労死や残業代ゼロにつながる高度プロフェッショナル制度(高プロ)の創設が盛り込まれている。労働者保護よりも使用者の企業を優先した法律と言わざるを得ない。
 同法は時間外労働(残業)に初の罰則付き上限規制を設け、非正規労働者の待遇を改善する「同一労働同一賃金」など、働く人の保護策も盛り込んだ。残業上限では特別な事情がある場合は例外的に年720時間まで認めるが、単月ではどれだけ長くても100時間未満、複数月の平均で80時間以内とする上限を付けた。
 しかし月100時間という水準は労災事案で働き過ぎと脳・心臓疾患との因果関係が認められる「過労死ライン」ぎりぎりだ。これで本当に働く人の命を守れるのか。
 「同一労働同一賃金」についても、正社員の処遇を下げて非正規と同じにすることにつながる懸念も指摘されている。
 高プロは2014年、経済界代表らが参加する産業競争力会議で打ち出された。対象を年収1075万円以上の研究職などに限り、年104日の休日取得を義務付ける措置も設けたと政府は強調する。
 類似制度があった。2006年、労働時間規制の適用を除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を求める計画を小泉純一郎政権が閣議決定した。この時に対象とされたのは「管理監督者の一歩手前」の年収800万~900万円のホワイトカラー労働者だった。しかしサラリーマン層の反発が強く、07年の第1次安倍晋三政権時に導入を見送っている。
 今回、年収を引き上げ、名称を変えた上で制度創設を実現させた。政府は「働く人のニーズがある」と説明するが、その根拠となった当事者への意見聴取の大半は法案提出目前に実施されていた。
 人数もわずか12人で、9人は今年1月31日と2月1日に聞き取りをした。加藤勝信厚生労働相が参院予算委員会で野党から「働く側の要請があるのか」と聞かれた当日と翌日だ。つまり法案の骨格をつくる作業では、当事者の意見をほとんど聞かなかったことになる。これで「働く人のニーズがある」と主張できるのか。あきれるほかない。
 政府は当初、一定時間を働いたとみなす「裁量労働制」の適用業種拡大も含めていた。深夜や休日の勤務以外は割り増し賃金を払わない制度だ。厚労省の不適切なデータが見つかり、断念した。
 安倍首相は成立後に「今後も働く人々の目線に立ち」と述べたが、実際は企業の目線に立っている。労働者を置き去りにした悪法は見直す必要がある。