<社説>がん患者にやじ 厳しく処分すべきだ


社会
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 一人の国会議員の資質だけの問題ではない。国会全体の問題だ。

 受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案の審議中、自民党の穴見陽一衆院議員が参考人のがん患者、長谷川一男さんにやじを浴びせた問題で、穴見氏が長谷川さんに謝罪文を送っていたことが分かった。
 穴見氏は謝罪文で「喫煙する機会が狭められていくことへの思いが出てしまった」と釈明した。法案の趣旨とは異なる身勝手な「思い」が暴言の動機という。一層資質が問われる。
 穴見氏は大分がん研究振興財団の理事でもあったのだから、あきれてしまう。暴言後、理事を辞任した。
 肺がんのため骨がもろくなった長谷川さんは装着しているコルセットを国会で見せながら「ラッシュの電車で恐怖を感じながら来た」と語った。「受動喫煙が原因で死んでいく年1万5千人の声なき声に耳を傾けて」と訴えた最中に、穴見氏は「いいかげんにしろ」と暴言を浴びせた。
 そもそも参考人招致は憲法が定める国政調査権の一つで、国会が専門家や関係者の意見に耳を傾ける機会である。長谷川さんを招きながら「いいかげんにしろ」とは非礼極まりない。野党議員は「参考人へのやじは前例がない」と批判する。この問題をどう扱うかは、国会の権威に関わる問題である。
 穴見氏の資質だけの問題ではない要素はまだある。
 健康増進法の改正案は、飲食店の屋内を原則禁煙としているが、例外によって既存店の55%で喫煙を認めている。自民党内で反対が強く、原案より大幅に後退した。規制が緩くなり、骨抜きにされることへの懸念がある。
 日本禁煙学会の作田学理事長は「たばこ業界から献金を受けたり利害関係があったりして、国民の方を向いていない議員が多いことが改めて明らかになった」と指摘する。
 穴見氏はファミリーレストランを展開する「ジョイフル」の取締役相談役でもある。改正案ではジョイフルのような大手チェーンは全面禁煙だ。暴言の背景に経営上の利害があったとすれば、謝罪文にある「勘違い」では済まされない。
 自民党の大西英男衆院議員が昨年5月、対策を訴えた同僚議員に「(がん患者は)働かなければいいんだよ」と発言し、謝罪した経緯もある。今の国会には暴言がまかり通る空気があるようだ。公正な審議を損ねる病巣といえる。
 騒動以降、穴見氏は公の場に姿を見せていない。選良としてあるまじき態度だ。逃げ隠れせず公の場で説明し、長谷川さんをはじめ関係者に直接謝罪すべきだ。
 一方の国会は今回、口頭で厳重注意しただけである。生ぬるい。この程度で済ませるなら暴言は決してなくならない。国会全体の問題として重く受け止め、穴見氏を厳しく処分すべきだ。