<社説>未就学児調査 社会挙げて親の支援を


社会
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 県の子ども貧困調査が、一昨年の小中学生、昨年の高校生に続いて未就学児について実施され、結果が公表された。県内の1歳、5歳の未就学児を持つ親の2割以上が経済的に困窮しており、困窮度が高いほど制度やサービスを利用できていないことが浮き彫りになった。背景に親の低賃金、長時間労働などの問題が横たわっている。

 「乳幼児期は人間形成の核になる時期であり、この時期に親が仕事に追われて子どもに十分関わることができないことの影響は大きい」と加藤彰彦沖縄大名誉教授は指摘している。労働問題を含む貧困対策を柱に据えて、乳幼児の親を支援する仕組み・制度を整えることを、社会の共通認識にしなければならない。
 今回の調査で、保育所などの施設に通っていない子どもは低所得層ほど割合が高く、一方で低所得層ほど「すぐにでも通わせたい」というニーズが高いことが分かった。親が低所得であるほど子どもが保育所に入りにくい現実がある。
 ひとり親世帯は特に深刻だ。低所得層の割合は、ひとり親では格段に高くなる。ひとり親の抑うつ傾向が高いことも今回の調査で示され、経済的困難が精神的負担につながっていることも裏付けられた。
 調査では児童扶養手当、生活保護など四つの社会福祉制度を利用した経験についても尋ねた。その結果「利用の仕方がわからなかった」「制度やサービスについてまったく知らなかった」という答えが低所得層ほど多かった。支援が必要な人々ほど情報を持っておらず、必要な制度・サービスに行き着いていない。
 「共働きをしないと生活できない」「子どもを預けられないので働けない」という矛盾の中で、親は低賃金の長時間労働を余儀なくされている。そして経済的不安もあって医療機関に子どもを連れて行けない、自分も行けないという実態がある。親の労働問題は、子育てや教育だけでなく、健康も犠牲になるという悪循環を生んでいるのである。
 沖縄の子どもの貧困率が29・9%に上ることを2016年に県が発表、衝撃が走った。その後、保育所の待機児童問題は一定の改善が進んだ。保育料や医療費の減免、給付型奨学金の創設など教育費の負担軽減が取り組まれ、民間の努力もあって子どもの居場所づくりも成果を上げている。報告書のまとめで島村聡沖縄大准教授は「妊娠期や子育て時の不安に即応できる人的体制と場づくりがこの先さらに重要になる」と強調した。
 貧困対策と子育て支援を進めるには、保育所の整備や各種の負担軽減をさらに充実させるだけでなく、人的支援も強化する必要がある。加えて、乳幼児期の親の育児を支えるための賃金上昇や労働環境の改善に、社会を挙げて取り組むべきである。