<社説>総務相に情報漏洩 公開制度の根幹揺るがす


社会
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 野田聖子総務相の事務所に絡む情報公開請求を受け、金融庁が、開示請求した報道機関名を含む情報を総務相側に漏洩(ろうえい)していたことが明らかになった。

 開示請求者の情報が漏れると分かれば、権力者側からの報復といった不都合を恐れて公開請求を見合わせるケースが少なからず出てくる。情報公開制度の意義を根底から揺るがしかねない。金融庁は「望ましくない行為で、深く反省している」とコメントしたが、わびて済む問題ではない。
 情報公開制度を所管するのは総務省だ。そのトップである野田氏は情報を伝えられた際、何の問題意識も抱かなかった。それどころか、この情報を記者との懇親会で話題にしている。不見識も甚だしい。
 同様の事例が2016年に地方で相次いだ。政務活動費の情報公開請求をした報道機関名などを議会事務局が議員に伝えていたのである。
 不適切な運用が度重なったため、総務省は「請求者の情報が公になれば、開示請求の萎縮や情報公開制度への信頼性の低下につながる恐れがある」として、個人情報の適切な取り扱いを求める通知を全国の自治体と議会に出した。
 野田氏はこの通知の存在さえ知らなかったと見える。資質以前の問題だ。
 各会派代表者会議で、開示請求をした報道機関名を口頭で説明した金沢市議会では、管理監督責任を問われ、議会事務局長が戒告、総務課長が訓告の処分を受けた。
 今回の件で、関係職員に相応の処分がなければ、地方に対して示しがつかない。
 野田氏の事務所秘書が今年1月、仮想通貨の販売規制について金融庁に説明させたことが発端だ。その席に、無登録営業の疑いで金融庁の調査を受けていた仮想通貨関連会社の関係者を同伴していた。閣僚の権威をかさに着て、圧力をかけたようにも映る。適切な対応だったとは思えない。
 この時の記録を朝日新聞が開示請求したところ、金融庁が情報を漏らした。担当職員は金融庁の内部調査に「閣僚が関わっているので情報共有した方がよいと思った」と説明したという。国会担当審議官ら幹部も了承していた。
 野田氏は自民党総裁候補にも名前が挙がる有力政治家だ。事前に情報を伝えることで点数稼ぎをしたかったのかもしれない。ここでも「忖度(そんたく)」が働いた。
 今回の件は、野田氏が記者との懇親会で言及していなければ、明るみに出なかった可能性がある。たまたま表沙汰になっただけで、実際は氷山の一角ではないのか。
 金融庁の情報を当然のように受け取った野田氏の反応、「情報の共有」を理由に挙げた金融庁担当者の説明から、そんな疑念が湧き上がる。
 情報公開法には請求者のプライバシーを保護する規定がない。法改正等で開示請求者に関する情報漏洩を禁止し、再発防止を徹底すべきだ。