<社説>死刑制度の存廃 終身刑含め議論進めたい


社会
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 オウム真理教による一連の凶悪事件で死刑が確定した13人の刑が執行された。1カ月という短期間に13人もの大量執行は極めて異例だ。

 今回の執行に対して、欧州諸国や国際機関から強い批判の声が上がった。2020年までの死刑廃止を求めている日弁連も抗議声明を出した。
 死刑廃止が世界の潮流となる中、日本は今後も制度を維持していくのか。終身刑導入なども視野に、死刑制度の存廃について国民的な議論を一歩進めていく時機だ。
 オウム事件は残忍卑劣な未曽有の事件だっただけに、死刑はやむを得ないと考える国民は多いだろう。被害者遺族も多くが厳罰を望んでいた。愛する家族の命を奪われた心情は十分に理解できる。
 ただ、今回の13人死刑執行には不透明な部分が多い。なぜこの時期か。来年の改元を前に「平成の事件は平成のうちに決着を」という意向が働いたともされる。
 再審請求中が10人いたにもかかわらず、執行に踏み切ったのはなぜか。元教祖の松本智津夫死刑囚の精神状態はどうだったのか。政府は国民への説明責任を果たしていない。議論する上での判断材料が不足している。
 世界はどうか。国際人権団体アムネスティー・インターナショナルによると、17年現在、死刑制度廃止国が106、実質廃止国が36の計142カ国ある。存続国は56カ国あるものの、17年に執行したのは23カ国だった。
 先進国で死刑を続けているのは日本と米国(州によっては廃止)だけだ。韓国は制度自体はあるが約20年間執行していない。欧州連合(EU)は死刑廃止が加盟条件だ。
 国連の02年調査で「死刑が終身刑よりも大きな抑止力を持つことを科学的に裏付ける証拠はない」との結論が出ている。人口当たりの殺人発生率の低さが世界1~3位のオーストリア、ノルウェー、スペインはいずれも死刑を廃止している。
 上川陽子法相は「死刑廃止は現状では適当ではない」と発言している。死刑容認の国民世論も背景にあるようだ。
 内閣府の14年の世論調査によると、死刑容認派は80%、廃止派は9%だった。ただ「終身刑を導入した場合」を聞くと、容認派は51%に減り、廃止派は37%に増え、差は大幅に縮まった。
 現行制度では死刑と無期懲役の差が大き過ぎる。終身刑導入を具体的に検討する時期ではないか。
 死刑は国家が一人の命を奪う究極の刑罰である。過去に再審事件が相次いだように、冤罪(えんざい)の危険性も付きまとう。
 裁判員裁判の中で一般市民が死刑と関わる機会も皆無ではない。判断を下すためにも、政府は死刑について秘密主義に陥らず、十分な情報公開を果たすべきだ。
 正しい情報に基づいて具体的な議論を進める機運を高めていきたい。