<社説>元防衛相の投稿 憲法尊重義務を忘れるな


社会
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 憲法をないがしろにする言辞が閣僚経験者から飛び出した。元防衛相の稲田朋美衆院議員が、法曹界の護憲派を念頭に「憲法教という新興宗教」などとツイッターに投稿していたのである。

 稲田氏は、保守系団体「日本会議」の支部が催した安倍晋三首相を支援する会合に出席したことを報告したうえで、支部長である弁護士について「法曹界にありながら憲法教という新興宗教に毒されず安倍総理を応援してくださっていることに感謝!」と書き込んだ。
 憲法99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と定めている。
 憲法を守ろうとする動きを指して「憲法教」などとやゆすることは、99条に明記された「尊重」「擁護」とは正反対の行為だ。憲法の趣旨から外れている。
 投稿は7月29日付だったが、さすがにまずいと感じたのか、30日までに削除された。
 稲田氏は、昨年7月まで防衛相として安倍内閣の一翼を担った。首相の秘蔵っ子といわれ、行政改革担当相、自民党政調会長などの要職を歴任している。南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(いんぺい)問題で辞任に追い込まれなければ、今も閣僚の地位にあったかもしれない。
 稲田氏のコメントは、安倍内閣の本音を映し出しているとの見方もできる。安倍首相を支援する会合に出た後の投稿である点を見過ごしてはならない。
 もとより、首相は憲法改正を「悲願」としており、9条への自衛隊明記を昨年5月に提唱した。これを踏まえ、自民党憲法改正推進本部は、戦力不保持と交戦権否認を定める9条2項を維持しながら自衛隊を明記する改正案の文案をまとめている。稲田氏も改正を推進する立場だ。
 だからといって、国の最高法規である憲法を軽んじることは許されない。戦後、今日に至るまで、国民が平和のうちに一定の豊かさを享受してきたのは、憲法という基盤があってのことだ。
 ところが、現政権下では、憲法の規定をないがしろにする事例が目立つ。昨年6月に野党が森友、加計学園問題の疑惑解明のため、臨時国会の召集を要求したが、安倍内閣は3カ月以上も放置した。
 憲法53条は「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と定める。
 憲法に忠実に従うなら、速やかに召集を決定すべきところだが、内閣はこれを怠った。「政治的な理由で召集を不当に延期することは、制度の趣旨に反する」(芦部信喜著「憲法第六版」)とされている。
 国会議員には、憲法を順守する義務がある。議員一人一人には、その点をよく自覚し、国民の模範となるような言動が求められる。