<社説>国が聴聞延期要求 時間稼ぎなら許されない


社会
この記事を書いた人 琉球新報社

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設で、沖縄防衛局は県が示していた公有水面埋め立て承認撤回に向けた聴聞の期日延期を求めてきた。県は通知から9日後の今月9日に聴聞日を設定した。これに対して防衛局は1カ月程度の準備期間が必要だとして、9月3日以降に変更するよう申し出た。

 防衛局は8月17日の土砂投入を表明している。延期要求は事実上、土砂投入前の県による撤回実施を阻む。本格的な埋め立て工事着手を予定通り実施するための時間稼ぎだとしたら、許されない。
 防衛局は延期理由について「反論のための調査や書面の作成にも相当の日数を要する」ことを挙げる。「相当な期間」を置くことを規定した行政手続法も持ち出した。
 しかし防衛局は県が2015年に埋め立て承認を取り消した時、全く違う対応を取っていた。聴聞期日は今回と同じく通知から9日後だったが、防衛局は聴聞期日に異議を唱えていない。
 しかも取り消しに反論する陳述書を通知翌日に送付している。準備期間はたった1日だ。しかも聴聞には出席せず、手続きを「終結してもらって構わない」と伝えている。今回の対応とあまりに違う。実に不可解だ。
 防衛局は県の聴聞通知書の内容について「具体性や明確性に欠けるものが多数ある」と指摘する。具体例として、工事によるサンゴやジュゴンへの影響に言及する記述を挙げ「『不利益処分の原因となる事実』として挙げられた記載について、その意味するところが具体的でなく、いかなる事実をもっていかなる要件を欠くとして不利益処分を受けるのか、これを特定することが困難といわざるを得ない」と主張している。
 しかし県の聴聞通知書を読む限り、承認の要件を欠いていると指摘している記述は極めて具体的だ。撤回の根拠として、現場海域が軟弱地盤だったり、活断層であったりすることや、環境保全策が十分でないことを挙げている。
 いずれもこれまで県が防衛局に指摘したり、国会で野党が追及してきたりしたものが多い。防衛省関係者はこうした指摘について「想定の範囲内」との見解も示している。
 通知書の大半は防衛局が取った対応そのものの指摘だ。承認の留意事項にある工事の実施設計についての事前協議や環境保全対策等についての協議を実施せずに工事が着手されたことなどを指摘している。防衛局はそれなりの根拠をもって協議に応じなかったはずだ。即座に説明できなければ正当性がない。
 防衛局は申出書で承認撤回について「工事等関係者に与える経済的・社会的影響は極めて大きい」と記す。しかし土砂投入こそ、県民に与える経済的・社会的影響が極めて大きいことを知るべきだ。防衛局は当初期日までに準備する必要がある。