<社説>サマータイム検討 国民本位で議論やり直せ

 ただ一つのマラソン大会のために、1億2千万人余の国民生活全体に影響を及ぼす制度を導入するというのか。愚の骨頂というほかない。

 2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として、安倍晋三首相が時間を夏季だけ早めるサマータイム(夏時間)導入の可否検討を自民党に指示した。これを受け、政府、与党は導入の可否について検討に入った。
 サマータイムは日照時間が長くなる夏季の時間を有効活用しようと、時計の針を標準時より進める制度だ。仮に1時間早める場合、午前6時が現在の午前5時に相当する。適用期間が終われば元に戻す。2009年の環境省調査では、欧米を中心に約70カ国が採用している。
 発端は東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が7月27日、安倍首相を官邸に訪ね、導入を要請したことにある。今夏の日本列島が酷暑に見舞われている状況を踏まえ、マラソンや競歩といった屋外競技の選手の体調に配慮するためだという。
 関係者によると、20年7月24日に開幕する東京五輪に合わせた時限措置として、夏季限定で日本標準時間を現在より2時間早める案が浮上している。男女マラソンで午前7時に設定している開始時間を実質的に午前5時に前倒しできるというのだ。
 よく考えてほしい。日本標準時を2時間早めるのではなく、マラソンのスタート時間を午前7時から午前5時に前倒しすればいいだけのことではないか。
 組織委は当初、マラソン開始時間を午前5時か6時に前倒しする変更案を持っていた。しかし国際陸上競技連盟は選手や運営スタッフが深夜に準備を始めるため、負担が大きいとして難色を示し、最終的に午前7時に決まった。
 マラソンに参加する選手や運営スタッフだけでサマータイムを導入し、通常時間よりも2時間早く就寝し、2時間早く起床して体調を整えれば済む話だ。なぜ日本全体の時間を早める必要があるのか。正気の沙汰とは思えない。
 サマータイムは本来、国民生活の向上に寄与するかという観点で導入可否を議論すべきだ。マラソン開始時間を機に検討が始まったこと自体、首をかしげざるを得ない。
 サマータイムは早朝の時間帯に社会活動が始まることで、省エネ効果が見込まれ、勤務終了後の活動が充実し、個人消費の伸びも期待できるといわれる。その一方で企業などのシステム改修に費用がかかり、労働時間が増えるとの懸念もある。
 00年代初頭には欧州連合(EU)全域で一斉実施する法律が施行された。しかし現在、存廃の検討を本格化させている。健康への悪影響があり、省エネ効果が想定されたほど得られていないからだ。
 拙速な導入は許されない。国民生活本位で議論をやり直すべきだ。



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