<社説>容疑者の逃走 反省点共有し再発防止を


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 大阪府警富田林署から12日に容疑者の男が逃走した。発生から10日が過ぎたが、まだ捕まっていない。前代未聞の警察の不手際が逃走事件につながった。事は大阪府警だけの問題なのか。全国の警察で管理体制をチェックし、不備があれば速やかに改善してもらいたい。

 男は窃盗や強制性交などの容疑で逮捕され、富田林署で勾留されていた。12日午後7時半から8時ごろまで弁護士と面会した後、接見室のアクリル板を押し破って逃げたとみられている。
 アクリル板はねじで固定されていなかったため、強い衝撃を与えれば外れる構造になっていた。設計・施工の欠陥と言える。
 接見室の扉にはブザーの装置があり、開くと鳴る仕組みになっていたが、電池を入れていなかった。接見終了時に弁護士が署員に知らせることが多いので不要と判断し抜き取っていたという。男と面会した弁護士は、署員に声を掛けず、そのまま帰った。
 致命的だったのは接見室の隣に誰一人署員を配置していなかったことだ。午後9時45分になるまで、容疑者がいないことに気付かなかった。
 失態はそれだけにとどまらない。容疑者の逃走を速やかに周知すべきであるにもかかわらず、犯罪の発生や不審者情報を府民に知らせるメールサービスで配信したのは覚知から約9時間後のことだ。
 地元市民への連絡も遅れた。富田林署と富田林市は、住民の生命に危害が及ぶ事件の情報を署が提供し市が防災無線で注意喚起する旨の覚書を結んでいる。署が放送を要請したのは事件を把握してから16時間もたった13日午後1時40分だった。
 危険な容疑者が逃げたときは、報道機関はもとより、あらゆる手段を利用して、その事実を広く知らせることが二次犯罪を防止する上で極めて重要だ。周知が遅れるほど市民に危害が及ぶ恐れが強まる。逮捕に結び付く情報が寄せられることもない。
 府警はその点をどう認識していたのか。防災無線放送については「文案の検討に時間を要した」と釈明している。市民の安全を第一に考えれば、検討の余地などないはずだ。
 男が逃げた後、ミニバイクを使ったひったくりが相次いで発生した。服装が似ていることから、男がバイクを盗んで犯行に及んだ可能性があるという。もしそうなら、警察の失態のせいで起きた事件ということになる。
 大阪府警は加重逃走容疑で男を指名手配し、3千~4千人態勢で行方を追っている。逃走を続ける中で新たな凶悪犯罪が起きたのでは取り返しがつかない。まずは男の逮捕に全力を挙げることだ。
 ずさんな管理体制が逃走を許し、その後の市民への周知にも迅速さを欠いた。反省すべき点を洗い出し、全国の警察で共有すべきだ。同じ失態を繰り返してはならない。