<社説>障がい者虐待最多 事業主の責務の浸透を


社会
この記事を書いた人 琉球新報社

 職場で上司などから虐待された障がい者が、調査を始めた2013年度以来、最多となった。人権尊重の観点から、障がいのある人もない人も働きやすい社会を目指して、職場と社会の意識を高めたい。

 厚生労働省がまとめた2017年度のデータでは、職場で雇用主や上司から虐待を受けたと通報や届け出があり、都道府県労働局が事実確認をした数は597事業所、1308人に上った。通報件数も1483事業所、2454人と過去最多だった。
 増加について厚労省は、心理的虐待に当たるいじめや嫌がらせは一般の労働者でも増えているとして「社会全体の問題意識が高まっているのではないか」としている。
 職場での障がい者の虐待をなくすために12年に「障害者虐待防止法」が施行された。障がい者の自立や社会参加の妨げとならないよう虐待を禁止し、その予防と早期発見のための取り組みなどを定めている。
 同法では使用者による障がい者虐待を(1)身体的虐待(2)性的虐待(3)心理的虐待(4)放置等による虐待(5)経済的虐待―の五つに分類している。加害者、被害者が虐待と認識していない場合であっても、虐待の発見者は市町村または都道府県に通報する義務がある。
 今回の調査では、最低賃金を下回る時給で働かせるなどの経済的虐待が最も多い1162人で、前年度の852人を大きく上回った。続いて暴言などの心理的虐待が116人、暴行や拘束などの身体的虐待が80人だった。被害者は知的障がい者、精神障がい者が約7割を占めている。
 虐待防止法では、事業主の責務として、労働者に対する研修の実施と、障がい者や家族からの苦情処理窓口を設け周知を図ることを求めている。また、虐待の通報をした人に対して、解雇するなど不利益な取り扱いをすることを禁じている。
 今回の調査では、50人未満の事業所が82%を占めた。中小企業経営者の中に、事業主の責務について自覚に乏しい人がおり、研修や苦情処理体制の整備が不十分だと考えられる。
 件数が最多となったことについて、働く障がい者の支援に取り組む早田賢史弁護士(第二東京弁護士会)は「声を上げる障がい者が増えた」と評価した。同時に「実際は泣き寝入りをしている人が何倍もおり、氷山の一角だ」と指摘する。
 その上で周囲の無理解が虐待につながるとして「企業全体で障がい者の特性を理解し、働きやすい職場づくりに取り組まなければならない」と強調した。
 事業主、特に中小企業経営者に虐待防止法を浸透させ、社会全体の意識を高めたい。障がい者の尊厳を守る取り組みを強化することによって、障がい者の雇用を促進して社会参加の機会をさらに広げるべきである。