<社説>安倍自民総裁3選 口先でない丁寧、謙虚を


社会
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 事実上、次の首相を選ぶ自民党総裁選で安倍晋三氏が3選された。特に国会議員405票のうち329票と圧倒的な票数を集め、石破茂元幹事長を突き放した。今後3年の任期で安倍氏は憲政史上最長の首相となる。

 ただし、地方の党員票は安倍氏224に対し、石破氏が181と善戦した。安倍陣営の圧勝戦略を阻んだのは、森友学園・加計学園問題に表れた政治や行政への批判票やアベノミクスに代表される経済政策の恩恵が地方には届いていないとの不満票だろう。安倍総裁は国民の批判や不満を謙虚に受け止めるべきだ。
 総裁選は安倍、石破両氏の一騎打ちとなったが、両者の政策論争は期待外れに終わった。安倍氏は、自身の関与が取り沙汰された森友・加計問題について問題をすり替えたり、はぐらかしたりした。
 特に民放テレビの報道番組での安倍氏の発言にはあきれた。司会者が「学生時代の友達でも金融庁幹部とメガバンクの頭取はゴルフをしてはいけない」と指摘したことに対し、安倍氏は「ゴルフに偏見を持っていると思う。今、オリンピックの種目になっている。ゴルフが駄目で、テニスはいいのか、将棋はいいのか」などと反論した。こんなすり替えで、国民は納得すると思っているのだろうか。
 ほかにも少子化や財政健全化への対応、地方の振興、災害列島と言われる国の防災、災害復旧策など喫緊の課題は多くあった。異次元の金融緩和策を正常化させる「出口」には総裁任期の3年以内に道筋を付けたいと述べたが、明確な説明はなかった。
 間近に迫る沖縄県知事選挙は、自民党が進める米軍普天間飛行場移設に伴う辺野古新基地建設が最大の争点となっている。
 石破氏は自身のホームページで、沖縄の基地集中の要因について、日米が本土の基地反対運動を恐れたからだとの見解を示したが、後に削除した。基地集中の理由が地理的優位性や軍事的要因などではないとした主張は正論だ。これを起点に沖縄の基地負担軽減や辺野古新基地建設の妥当性を論じてほしかった。
 安倍総裁は開票後、憲法改正に取り組むと明言した。しかし国民は改定には否定的だ。共同通信社が8月に実施した全国電話世論調査では、憲法改正への反対が49・0%と、賛成の36・7%を大きく上回った。
 国民のほぼ半数が反対する憲法改正は最優先課題だろうか。それよりも前に取り組むべき問題は多い。地方票に表れた不信や不満にどう応えるのか。
 選挙戦では石破陣営の斎藤健農相に対する辞任圧力問題などもあり、安倍一強態勢の弊害もにじみ出た。安倍総裁は「謙虚に、丁寧に」と繰り返したが、この間、丁寧な説明を受けた記憶はない。口先だけでなく実行してもらいたい。