<社説>日米関税協議入り 理を尽くして交渉に臨め


社会
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 安倍晋三首相とトランプ米大統領が日米間による「物品貿易協定」(TAG)の締結に向けて通商交渉に入ることで合意した。新たな関税協議となる。

 政府は、農産品への関税の下げ幅を最小限にし、米国による日本車への追加関税発動を阻止するため、あらゆる手だてを講じてほしい。
 安倍首相はこの間、トランプ氏の機嫌を損ねないように、ゴルフなどを通して懐柔に努めてきた。だが、国家間の交渉はそんな見え透いた「たいこ持ち」が通用するほど甘くはない。まして相手は予測不能といわれるトランプ大統領である。
 米国の主張は巨額の対日貿易赤字の削減だ。そのために農産品の関税引き下げによる市場開放を求めている。交渉に応じなければ日本から輸入する自動車に高い追加関税を課すと迫ってきた。
 自動車関連の従事者は全就業人口の1割弱を占める。日本経済を牽引(けんいん)する基幹産業だ。25%の追加関税が発動される事態にでもなれば、国民生活に打撃を与えかねない。
 首相は、農林水産品は環太平洋連携協定(TPP)で合意した水準までしか関税引き下げを認めない方針を伝え、トランプ氏は尊重する考えを示した。
 結果として、TPPで日本が約束した関税のレベルまで譲歩することが既定路線になった。TPPと同じにすると、輸入牛肉の場合、38・5%の関税が9%に下がる。
 その代わり、TAGの協議を続けている間、米側による自動車への追加関税発動を回避させた。自動車産業を守るため農林水産業を犠牲にした格好だ。
 日本としては、これが精いっぱいだったのだろうか。日米の力の差をまざまざと見せつけられた。
 安倍首相は記者会見で「TAGは包括的な自由貿易協定(FTA)とは全く異なる。双方にメリットある結果を得られるよう議論を進める」と述べ、農産品などの市場開放に直結するFTAとの違いを強調した。
 だが、日米共同声明には「他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する」と明記している。実質的にFTAと変わらない。
 「TAG」は日本政府の造語のようだ。「Trade Agreement on Goods」の略で、FTAよりも交渉範囲が限定されるという。
 国内では、FTAへのアレルギー感情が強い。交渉の実体を覆い隠したい政権の思惑が透けて見える。
 日本は、米国の圧力に屈し、多国間の協定を重視する従来の立場から転換を余儀なくされた。
 国力をかさに着て恫喝(どうかつ)する米国の態度は乱暴としか言いようがない。政府は、綿密な理論武装によってトランプ政権に対抗するしかない。