<社説>首相の追悼の辞 空疎で虚飾に満ちている

 菅義偉官房長官が翁長雄志前知事の県民葬に参列し、安倍晋三首相の追悼の辞を代読した。拍手はなく、怒号が飛んだ。空疎で虚飾に満ちていたからだ。

 菅官房長官は4年前、知事に就任した翁長氏との面談を4カ月も拒み続けた。沖縄の民意を一顧だにせず、米軍普天間飛行場の移設に伴う新基地建設を名護市辺野古で強行する中心人物だ。
 新基地建設に反対する翁長氏は2015年4月、知事として初めて菅氏と会談した際「官房長官は『粛々』という言葉を何回も使う。埋め立て工事に関し問答無用という姿勢が感じられる。『沖縄の自治は神話だ』と言った最高権力者キャラウェイ高等弁務官の姿と重なる」と苦言を呈している。
 1961年、琉球政府立法院議員だった平良幸市氏(後の知事)は米国施政下の理不尽な状況を踏まえ、沖縄を訪問した国会議員団に対し「何のかんばせ(顔)あって沖縄県民に相まみえんや、というお気持ちから(議員団は)おいでになるまいという声もあった」と不満を示した。
 住民の意思に反して基地を押し付けられている沖縄の立場は今も大して変わらない。高等弁務官が首相や官房長官に代わっただけだ。
 菅氏の参列に「何のかんばせあって」という印象を持った県民も少なくないだろう。今や官房長官は沖縄への圧政を象徴する存在と言っていい。政権の高圧的な姿勢が翁長氏の健康を害する一因になった可能性も否定できない。
 追悼の辞で首相は、沖縄の過重な基地負担について「現状は到底是認できない」とした上で、「政府としてもできることは全て行う。目に見える形で実現するという方針の下、基地負担の軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意だ」と宣言した。
 「政府としてできることを全て行う」と言うのなら、なぜ、県知事選で明確になった新基地建設反対の民意を尊重しないのか。
 追悼の辞では「沖縄県民の気持ちに寄り添いながら、沖縄の振興、発展のために全力を尽くす」とも述べている。
 県は、仲井真弘多元知事による新基地建設予定地の埋め立て承認を8月31日に撤回した。これを受け安倍政権は法的対抗措置を取る構えを見せてきた。
 県民の大多数が反対する新基地を造ることが県民に寄り添うことなのか。読み上げた官房長官自身、矛盾を感じなかったのだろうか。
 首相は「翁長前知事の沖縄にかける思いをしっかり受け止めて沖縄の振興をさらに前に進めることを誓う」と言明している。
 本当に翁長氏の思いを受け止めるのなら、新基地建設を直ちに中止し、県内移設を伴わない普天間飛行場の全面返還を米側と交渉することだ。それが翁長氏の遺志に応える唯一の道である。