<社説>サウジ記者殺害 言論の抹殺は許されない


社会
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 トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で、政府を批判してきたサウジ人記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件は、あまりにも不可解なことが多すぎる。最大の要因は、説明を二転三転させるなど不誠実な対応に終始するサウジアラビア政府の姿勢にある。事件の首謀者がサウジ政府中枢に存在すると考えるほかない。

 トルコのエルドアン大統領の説明などで事件の詳細が次第に明らかになっている。カショギ氏が9月28日にサウジ総領事館を訪問したことを機に、事件は動きだした。カショギ氏は10月2日に総領事館を再訪するよう要請されたようだ。
 最初の訪問後、複数の館員が急きょサウジに帰国した。今月1日にはイスタンブール郊外の森などの下見も行われたという。1日から2日にかけて、サウジから治安要員や法医学者ら15人が特別機などでトルコ入りした。
 その後、総領事館内の監視カメラの映像を記録するハードディスクが抜かれた。総領事館職員らは事件当日、館内の一つの部屋に集められ、休日を言い渡された者もいた。そしてカショギ氏は2日昼すぎに館内に入った。用意周到に殺害の準備が進められていたとしか思えない。
 ロイター通信がアラブ諸国高官の話として伝えたところでは、サウジのムハンマド皇太子の右腕とされる元王室顧問のサウド・カハタニ氏がネット電話で館内のカショギ氏と会話し、激しくののしり合った。トルコ情報当局によると、カハタニ氏は「その犬の首を持ってこい」と部下に殺害を指示したという。
 殺害時に録音されたとみられる音声記録があり、そこにはカショギ氏がサウジ当局らに尋問を受けて殺害され、体が切断されたことを証明する内容が含まれている。エルドアン大統領や米中央情報局(CIA)のハスペル長官も確認している。
 サウジは当初、カショギ氏が総領事館を訪問後に立ち去ったと事件性を否定していた。しかし国際社会の批判に押される形で「偶発的な口論と格闘で死亡した」と一転して館内での死亡を認めた。さらにその後、関与した実行犯らが「事前に犯行の意図を固めていた」との情報がトルコから寄せられたと発表した。
 サウジ政府はいつまで「子供じみた発表」(エルドアン大統領)を重ね「史上最悪のもみ消し」(トランプ米大統領)を続けるのか。ムハンマド皇太子の「卑劣な犯罪で正当化できない」という言葉が空虚に響く。
 国際人権宣言19条は「全ての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する」と定め、表現の自由を保障した。事件は国家による殺人であり、言論の自由、報道の自由の抹殺ではないか。決してうやむやにしてはならない。国際社会は協力して真相究明を進める必要がある。