<社説>米のINF条約離脱 軍縮へ再交渉が必要だ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米国が1987年にソ連と結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約からの離脱を表明し、新冷戦時代到来への懸念が広がっている。この条約は冷戦終結を後押しした象徴ともいわれる。史上初の特定兵器の全廃条約で、核軍縮の潮流を生み出す歴史的な転機ともなった。

 当時のゴルバチョフ・ソ連共産党書記長とレーガン米大統領が調印した。地上配備の中・短距離核ミサイル(射程500~5500キロ)を全廃することに合意し、91年までに両国で計2692基を廃棄した。
 核大国の軍縮に道を開いた条約から米国が離脱すれば、世界的な核軍縮の機運が大きく後退する。
 米国は離脱の理由としてロシアの条約違反を挙げている。ロシアが開発した新型の地上発射型巡航ミサイルの射程が、条約が禁じる射程に達するとして問題視してきた。これに対しロシアは条約違反を否定する一方、米国がルーマニアなどに配備したミサイル防衛システムなどを条約違反だと主張している。
 双方に共通の思惑がある。米ロが条約に縛られる一方で、縛られない中国やイラン、北朝鮮などが核ミサイル開発を進めた。米ロだけがこうしたミサイルを配備できないのはおかしいというものだ。
 ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はロシアが違反を続ける状況下で、米国だけが条約を順守するのは割に合わないと主張する。いずれにしても離脱は乱暴で冷静さを欠いている。冷戦終結や核軍縮の潮流という貴重な礎を簡単にほごにしていいはずがない。他の道を探るべきである。
 作家の佐藤優氏は本紙27日付「ウチナー評論」で、米国の真の狙いは対中抑止力にあると指摘する。米中関係は今後緊張を高めるとし、米国の中距離核ミサイルの日本配備を求める議論が出てくると、配置場所は沖縄になる可能性が「かなり高い」と分析する。
 国是である非核三原則を放棄することは、断じて容認できない。
 ロシアのプーチン大統領は米国が欧州に中距離ミサイルを配備すれば、ロシアも「同様の対抗措置を取る」と警告した。米国のミサイルを受け入れる国は「(ロシアの)ミサイルによる反撃の脅威にさらすことになる」と主張する。
 今後、米中、米ロの緊張が高まれば、沖縄は反撃の標的される脅威が増大する。沖縄にとって極めて憂慮すべき事態だ。
 今回の条約離脱表明は早計で思いとどまるべきだ。世界の安全保障環境に合わないというなら多国間の新たな軍縮交渉の枠組みも検討する必要がある。トランプ米大統領は協議の余地も示唆している。11月11日にパリで開かれる米ロ首脳会談でプーチン氏と共に軍縮の新たな糸口を模索してほしい。核軍拡競争時代に逆戻りしてはならない。