<社説>日産ゴーン氏逮捕 組織の責任看過できない


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 世界中に衝撃が走ったに違いない。カリスマ経営者として著名なカルロス・ゴーン日産自動車代表取締役会長が東京地検特捜部に逮捕された。同社の有価証券報告書に自身の5年間の役員報酬を約50億円過少に記載し申告した金融商品取引法違反容疑である。 ゴーン容疑者は販売台数世界2位のルノー・日産・三菱自動車連合の要としてそれぞれの会長を務めている。日産のみならず3社の経営に打撃を与え、世界経済にも影響が及ぶだろう。

 共謀したとしてグレゴリー・ケリー代表取締役も逮捕され、日産の代表取締役3人のうち2人が逮捕された。残る1人の西川広人社長が記者会見を開き、ほかに資金の不正流用、経費の不正使用があったと明らかにした。事実なら業務上横領や特別背任でも立件される可能性がある。
 西川社長によると、内部通報を端緒に監査役の問題提起があり、数カ月に及ぶ社内調査を行ったという。容疑段階ではあるが、公の場での社長による説明は重い。
 ゴーン容疑者の高額な報酬は就任当時から問題にされてきた。2013年の株主総会では「競争力を維持するため、最高の人材を採用しなければならない」と述べ、海外メーカートップの平均報酬額を示すなどして正当化した。実際は批判された額の倍を得てきたことになる。
 検察と司法取引をしたことも判明した。6月に制度化されたばかりで今回で2例目だ。7月の1例目は大手発電機メーカーによる外国公務員への贈賄容疑だった。関与した社員が起訴され、捜査に協力した企業は不起訴となった。トカゲのしっぽ切りで組織を守る、司法取引の制度的欠陥が浮かび上がった。
 金融商品取引法は、代表者が有価証券報告書の虚偽記載をした場合、法人にも7億円以下の罰金を科すと規定している。今回は「しっぽ」ではなくトップだが、組織が本来問われるべきペナルティーを免れるための司法取引だったのか。取引の中身を明らかにすべきだ。
 ほかにも分からないことが多い。役員報酬はどのように決定されていたのか。虚偽記載を他の取締役らは知らなかったのか。ゴーン容疑者は脱税はしていないのか。これらの不正の動機は何か。
 ゴーン容疑者が20年近く君臨して独裁体制を築いていたことが事件の背景にあると指摘されている。不正があったのなら、長年にわたってそれを許した組織の責任も見過ごすことはできない。捜査機関による解明の前に、日産経営陣は経緯を詳細に明らかにすべきだ。
 被害者は株主だけではない。製品ユーザーや取引先、社員も被害者だ。また、日産の業績回復のためにリストラの犠牲になった人たちにも思いをはせたい。日産に組織として説明責任を果たすよう求めたい。