<社説>入管難民法改正 事は生身の人間の話だ


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 外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正案が参院本会議で可決、成立する。衆参両院の議論の過程で、日本で働く外国人技能実習生に関する悲惨な実態が次々と明らかになり、国のデータの誤りも発覚した。にもかかわらず、与党は熟議を置き去りにしたまま数の力で押し切った。

 企業側は人手不足解消の切り札として期待するが、事は生身の人間の話だ。受け入れるならば、その人たちが日本で共生できるよう人権を尊重し、日本語教育や医療態勢、生活支援などさまざまな施策を講じなければならない。その論議もないまま、不十分な審議で成立させるのは拙速にすぎる。将来へ禍根を残すだろう。
 日本は外国人に関し、専門知識のある人に限り受け入れていた。しかし1990年の法改正で、日系人が自動車工場などで単純労働をすることが可能となった。93年には途上国に技能を移転し、経済発展を担う人材育成に協力するという目的で外国人技能実習制度が始まった。技能実習という建前の陰で、「安価な労働力」として外国人を受け入れ、低賃金や長時間労働など不当な条件で働かせる企業が少なくない。
 国会審議では、2015年からの3年間に69人の技能実習生が事故死や病死、自殺などで死亡したことが明らかになった。今年前半だけで実習生4279人が失踪した。劣悪な労働条件から逃れようとしたとみられる外国人が後を絶たないようだ。野党が法務省の調査票を精査した結果、失踪者の7割近くが最低賃金を下回っていた。
 政府は技能実習と新たな受け入れは別のものだと主張するが、その一方で、新制度導入初年度に受け入れを見込む新在留資格「特定技能1号」のうち55~59%は実習生からの移行だと想定する。明らかに矛盾している。まずは実習制度の問題の解決が先だ。
 沖縄も例外ではない。県内の外国人技能実習生は倍々で増え、17年は926人となった。沖縄労働局によると、技能実習を受け入れている県内19事業者のうち、18事業者に賃金や労働関係法令の違反があった。不当な扱いを受けている実習生が多いことが分かる。
 グローバル社会の中で、日本が外国人を受け入れることは当然であり、日本がこれまで移民をかたくなに拒んできた姿勢を是正するのに異論はない。しかし、それには外国人労働者の社会保障や生活支援などの受け入れ態勢を整えることが不可欠だ。
 繰り返すが、受け入れるのは私たちと同じ人間であって、使い捨てできる「労働力」というものではない。法律が成立しても、新制度の設計は省令に委ねられている。共生社会に向け、技能実習生の現状把握と改善を図り、外国人材を受け入れるきめ細かな施策を立てるべきだ。