<社説>県民投票予算案否決 自己決定権を奪わないで


社会
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 住民が投票する権利を市町村議会が奪っていいのだろうか。自己決定権の行使を認めない判断は甚だ疑問だ。

 名護市辺野古の新基地建設の是非を問う県民投票について、うるま市議会の企画総務常任委員会が投票事務経費約2560万円の予算案を賛成少数で否決した。
 県民投票関連の予算案が市町村議会の委員会で否決されたのは初めてだ。他の市町村に波及しないか懸念される。
 仮に議会で否決されても、市町村長は専決処分で予算を執行できる。民主主義の原点に立ち返り、首長が良識ある決断を下すよう期待したい。
 うるま市議会の委員会採決は賛成3人、反対4人だった。20日の本会議で採決する予定だが、与党会派は議員個々の投票を拘束しない方針のため、採決の行方は流動的だ。
 委員会の議論では「普天間の危険性除去はどうなるのか」との反対意見が出た。
 普天間飛行場の危険性除去については、党派を問わず異論がない。早期返還は紛れもなく県民の共通認識である。危険性除去は自明の理で、それを踏まえて辺野古移設の是非を判断するのが今回の県民投票である。
 普天間飛行場の移設問題は「辺野古」か「普天間」かの二者択一ではない。辺野古新基地が完成しても、八つの返還条件を満たさなければ普天間飛行場は返還されないと、稲田朋美防衛相(当時)が昨年、国会で明言している。辺野古新基地と普天間返還はリンクしていないのだ。
 辺野古移設が争点となった県知事選や国政選挙で県民が反対の意思を示しても、政府は「争点は基地問題だけではない」として、新基地建設を強行してきた。
 問答無用の安倍政権に対し、単一の争点に絞って明確な民意を示すのは、沖縄の自己決定権を内外に知らしめる上で極めて大きい意義がある。
 住民投票は間接民主制の短所を補う直接民主制で、参政権の根幹だ。市民が意思表示する機会を議会が奪うのは民主主義の自殺行為ではないか。
 県民投票に反対する意見書を可決するのは議会の意思表明であり、自由だ。しかし、投票の予算案まで否決してしまうのなら民主主義の否定である。権限を乱用してはいけない。市民が意思表明する機会を保障するのが、議会としての大事な務めではないか。
 辺野古新基地をやむを得ず容認するのなら、県民投票の際に、説得力ある主張で県民に訴えるべきである。本質の議論を避けて、投票の在り方という入り口論で足踏みするのは良くない。
 地方自治法177条によると、議会が予算案を否決した場合、市町村長は再議に付す必要がある。議会が再度経費を削除、減額しても、市町村長は予算を計上、支出できる。
 市町村長は住民が投票する権利と機会を奪うことなく、沈着冷静に賢明な判断を下してほしい。