<社説>元副知事口利き認定 介入許さぬ仕組みが必要


社会
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 厳正公平でなければならない教員採用試験で、県政で知事に次ぐ地位にある副知事が特定の受験者を合格させるよう働き掛けていたことを裁判所が認めた。言語道断だ。県は改めて襟を正すと同時に、採用試験への介入を許さない仕組みを構築すべきだ。

 安慶田光男氏が副知事在任中の2015年に教員採用試験で県教育庁に口利きをした疑惑が表面化したのは17年1月のことだ。安慶田氏は疑惑を否定しながらも、県政に混乱と停滞を招いたとして副知事を辞任した。
 その直後に前教育長の諸見里明氏が、特定の受験者を合格させるよう安慶田氏から働き掛けがあったと証言した。
 それによると、副知事室で3人の受験番号、教科、氏名が記されたメモ用紙を渡された。「よろしくお願い」「無理しなくてもいい」と言われたという。自室に戻って県教育庁の幹部2人と協議し、応じない方針を確認している。諸見里氏らの証言を踏まえ、県教育庁は「副知事から働き掛けがあったと考えざるを得ない」と結論付けた。
 これに対し、安慶田氏は諸見里氏を名誉毀損で告訴するとともに、損害賠償を求める訴訟を那覇地裁に起こした。諸見里氏は安慶田氏による不当な訴訟で名誉を傷つけられたとして賠償などを求めて反訴していた。那覇地検は昨年8月、諸見里氏を不起訴処分としている。
 その後、平敷昭人教育長が16年実施の採用試験を巡って、受験番号や氏名が記されたメモを安慶田氏から示され「何とかならないか」と依頼されたと証言した。
 さらに県の第三者委員会も安慶田氏の口利き行為は実際にあった可能性が高いと認定する報告書を公表している。
 那覇地裁の平山馨裁判長は諸見里氏の証言を「迫真性に富み、自然で格別不審な点はない」と認め、安慶田氏に対し損害賠償として計525万円を支払うよう命じた。
 判決が指摘した通り、諸見里氏の行為は、不正を見過ごせない正義感に駆られての行動と言える。高く評価したい。自らも関与を疑われかねないリスクがある中で、あえて証言に踏み切った勇気には見習うべき点が多い。
 判決は、諸見里氏の証言を虚偽だと公言した安慶田氏による会見や提訴、告訴を違法と認定した。
 不正を働いた者が、そのことを告発した人物を逆に訴えて、口封じを図るかのような手法が横行するなら、社会の公正は保てない。
 安慶田氏は判決をどう受け止めるのか。副知事という要職にあった者として、自らの口から説明することは当然の責務だろう。
 県の第三者委は再発防止策として、県三役などの特別職を対象外としている職員倫理規定の改定や職員に対する働き掛けを記録し報告する制度の確立を提言していた。早急な実現を求めたい。