<社説>県民投票不参加表明 市民の権利尊重し再考を


社会
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 宮古島市の下地敏彦市長が、辺野古基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票を同市では実施しないと表明した。宮古島市民は、地方自治法に基づく直接請求署名と県議会の議決によって実現した意思表示の権利を奪われることになる。市長は再考すべきである。

 宮古島市議会では、補正予算から県民投票実施のための予算を削除した修正案が賛成多数で可決され、再議に付されても同様の結果だった。
 表明に際して下地市長は「住民から選ばれた議員が判断したもので、大変重い」と述べ、市議会の判断を尊重する意向を示した。
 県民投票条例制定の直接請求で宮古島市の有権者の1割に近い4184人が署名した。県民投票に反対した議員はこの民意をくみ取って採決に臨んだのだろうか。市長は市議会の多数決より市民の権利を尊重して、地方自治法に従い専決処分で予算を執行しなければならないはずである。
 今回の県民投票条例は、賛否いずれかの多い方が有権者数の4分の1に達した時、知事はその結果を尊重しなければならないとしている。どちらがより多く、かつ4分の1に達するかが焦点となる。
 市町村議会で県民投票を巡る議論が続いてきた。二者択一ではなく「やむを得ない」「どちらとも言えない」を加えた4択にすべきという意見や「普天間飛行場の危険性除去が置き去りになる」などの批判がある。
 選択肢が多ければ投票率は上がるかもしれないが、あいまいな結果に終わりかねない。それでは住民投票をやる意義は薄れる。県民投票は県民が意思表示の権利を得るとともに、二者択一の真剣な議論をして判断しようという営みでもある。
 普天間が置き去りになるというのも筋違いだ。県民投票は「普天間固定化」か「辺野古移設」かの二者択一ではない。県は辺野古の工事は完成まで13年以上かかると試算しており、完成しても普天間の返還は約束されていない。これでは普天間の危険性は長期にわたって続く。普天間の固定化を許さず、運用を停止させ早期返還を実現することは県民挙げて取り組むべき緊急課題である。県民投票を実施しない理由にはならない。
 下地市長は記者団に「国全体に関わる問題を一地域で決定するというのは国の専権事項を侵す形になると思う」とも述べた。
 軍事については国の言いなりになるしかないと言うのであろうか。それがどのような結果をもたらすかは、現在は基地被害が目立たない宮古、八重山も含め、沖縄の近現代史が雄弁に物語っている。
 自分たちが再び軍事の犠牲にならないために、自らの未来について自らで判断したい。県民投票はその機会だ。県民投票の是非を論じるのではなく、県民投票を実施する中で真剣に議論すべきだ。