<社説>県民投票全県断念へ 権利侵害の議論が必要だ

 名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票を巡り、玉城デニー知事は、実施を拒んでいる市が不参加でも予定通り2月24日に実施すると表明した。賛否2択の選択肢を見直して不参加を決めた市に譲歩したり、県が市に代わって投票事務を実施したりするのは困難と言う。いずれの方法でも県民投票条例を改正する必要があるが、改正しない考えだ。

 これまで沖縄、うるま、宜野湾、宮古島、石垣の5市長が不参加の方向だ。県は地方自治法に基づき投票事務の実施を勧告し、是正の要求も行う予定だが、これらの市長が翻意する公算は極めて小さいとみられている。このため条例を改正しない決断は、全市町村での投票実施を事実上、断念した形だ。
 知事がその結論を出したのは、県議会与党の意向を尊重したことが大きい。与党内は条例改正に否定的な意見が強い。選択肢を変えると、逆に賛否2択で実施を決めた市町村からの反発が予想される。
 県が市に代わって投票事務を行う場合は、参加を拒む市から事務に必要な選挙人名簿を提供してもらえるか不透明であることに加え、作業に膨大な時間を要する。このため投票日の延期を検討せざるを得ない。こうした混乱を回避する判断が働いた。
 参加を拒む市長は「チーム沖縄」のメンバーだ。翁長雄志前知事の誕生時から、辺野古新基地建設に反対する「オール沖縄」勢力に対抗してきた市長たちである。その観点から見ると、県民投票を政争の具にしている感もある。玉城県政の失点をつくり、足を引っ張る狙いが透けて見える。そうだとすれば、与党が譲歩しても、また他の理由で反対する可能性は否めない。
 実際、弁護士資格を持つ宮崎政久衆院議員(自民)が市町村議員に文書を配り、県民投票への反対を呼び掛けていたことが判明した。投票を実施させない、あの手この手を指南していた。全県実施を阻止することで県民投票の意義を損ねさせる政治的意図は明白だ。民主主義を否定する行為と言わざるを得ない。
 投票事務の予算を否決した市議会や市長の判断も問題だ。間接民主制を取る中で住民投票は、より成熟した民主主義に近づけるために保障された権利である。市長らは市議会の意思を尊重したと言うが、有権者は市長や議員に行政運営や政策の判断は託しても、住民の権利を奪うことまでは委ねていない。住民による直接の意思表明の権利を奪うことは重大な権利侵害だ。
 玉城知事は知事選で「一人も取り残さない」と強調し、民主主義の理念を訴えてきた。5市で実施されない場合は任意の投票などが模索されているが、知事は有権者に対し説明を尽くすべきである。有権者は、新基地の是非だけではなく、住民の権利侵害についても議論を深め、意思を示す必要がある。