<社説>所有者不明の土地 登記促す仕組みが必要だ


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 所有者が亡くなった後に相続登記がなされず持ち主が分からなくなっている土地が全国的に増加し、問題化している。道路建設などの公共事業に支障を来すだけでなく、不法投棄や景観悪化の原因にもなる。相続登記の義務化をはじめ、所有者を明確にするための新たな制度の検討を急ぐべきだ。

 増田寛也元総務相ら民間有識者でつくる研究会の推計では、2016年時点の所有者不明地は約410万ヘクタールに上り、九州の面積を上回っている。土地の筆数で見ると全体の2割に当たる。対策を怠れば40年には720万ヘクタールに達する可能性があるという。
 公共事業を進めるときに、取得したい土地の所有者が分からなければ、関係者の同意を得るために膨大な時間と労力が必要になる。研究会は17~40年の経済損失を約6兆円と見積もった。
 相続時の登記が任意であることが背景にある。登記名義人が亡くなっても相続人から申請がなければ登記記録はそのままだ。地方では、地価が下がる中、固定資産税などの税負担につながる登記手続きを敬遠する人が少なくないようだ。相続登記の義務化を含め、手続きを促すための仕組みを検討する必要がある。
 政府内では、戸籍と登記簿を連携させ一括管理することの是非についても議論されているという。戸籍事務を処理する市町村から不動産登記事務を担う法務局に所有者の死亡情報などが迅速に伝わるならば、登記簿に反映しやすくなるだろう。一方で、個人情報の取り扱いに不安も残る。慎重に判断すべきだ。
 県内では相続登記が30年以上行われていない土地が那覇市、沖縄市など20市町村で少なくとも約2500筆あり、那覇地方法務局が相続関係の調査に着手した。
 所有者の生死を確認し、亡くなっている場合は相続人を追跡、所有者と相続人の関係などをまとめた相続関係図を作成する。法定相続人には相続登記を依頼する通知を出す予定だ。それによって、自治体が相続人を探す手間が省け、公共事業の円滑な実施が期待できるという。
 中には相続の権利者が2代、3代にまたがり、100人を超える例もある。血縁者の関係が希薄化し相続人の確認が難しくなっていることも相続登記がなされない一因だ。海外へ多くの移民を送り出したため、国外に居住していることも少なくない。まずは相続登記がなされずに放置されている土地の実態を把握することが大切だ。
 粟国村では土地の所有者が分からないため島内一周道路の建設工事がうまく進まず虫くい状態で中断を余儀なくされた。相続人の多くは島外で暮らしており、同意書を取り付けるのは並大抵ではない。
 限りある土地を利活用できないことによるマイナス面は計り知れない。実効性のある対策が求められる。