<社説>泥沼の統計不正問題 政府は逃げずに説明せよ


社会
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 連日、国会は統計不正問題で野党の厳しい追及が続いている。真相究明に後ろ向きな政府の姿勢のせいで解明が進まない。まるで泥沼にはまってしまっているかのようだ。

 次々と新たな問題が浮上する。経過を振り返ってみる。
 昨年末に毎月勤労統計の不正が明らかになった。賃金、労働時間、雇用の変化を迅速に把握するため毎月調査・公表しているのが毎月勤労統計である。
 従業員500人以上の大規模事業所は全数調査をすべきなのに、2004年から東京都内は3分の1程度の抽出にとどめるようになった。そのため全国の平均給与額が低くなり、失業給付などの過少給付が大量に発生した。追加給付のために予算案の閣議決定をやり直す事態になった。
 この問題を厚労省は特別監察委員会を設置して調査した。しかしすぐに、省幹部が聞き取りに立ち会っていたことが発覚し、報告書公表の3日後に再調査を決めるという醜態をさらした。
 勤労統計問題を受け、政府は56の基幹統計を総点検した。その結果、7省の22統計で不適切な処理が見つかった。
 その一つ、賃金構造基本統計では、訪問調査と定められているのに郵送で済ませ、その事実を隠蔽(いんぺい)していた。これも厚労省の不正である。
 毎月勤労統計を巡り目下、二つの大きな問題がある。
 一つは、04年になぜ全数調査から抽出調査に変えたかだ。調査を受ける企業の不満や、調査に当たる人員の不足が可能性として指摘されるが、いまだに明らかになっていない。18年に元に戻した経緯も定かではない。不正を認識しながら漫然と前例踏襲を続ける官僚機構の退廃ぶりは深刻だ。
 もう一つは、中規模事業所の調査対象の抽出方法を、なぜ18年1月に変えたのかである。それまで2、3年ごと総入れ替えをしていたのに、一部入れ替えに変更された。そうすることで、実質賃金を上振れさせていた。
 15年に厚労省の有識者検討会は「総入れ替え方式」継続でまとまっていたのに、当時の首相秘書官が厚労省幹部に「部分入れ替え」を提案し、その結果、結論がひっくり返されたというのである。
 野党側は、アベノミクスの成果とするために実質賃金の上昇率を膨らませるよう統計を操作したと疑い、「官邸の圧力によるアベノミクス偽装」と主張している。
 官房の意向を受けて官僚の忖度(そんたく)が働き、結果として行政がゆがめられたとすれば、未解決の森友学園・加計学園問題と同じ構図だ。
 問題が発覚すると素早く官僚を処分し、国会で説明を拒み追及を引き延ばす。政治家は責任を取らず、国民の関心が弱まるのを待つ。そんな政治・行政が続けば国全体が泥沼に没してしまう。うやむやにされないよう、一層監視を強めなければならない。