<社説>安倍首相の改憲姿勢 憲法軽視の弊害もたらす


社会
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 安倍晋三首相は3日に公開したビデオメッセージで、憲法9条への自衛隊明記を軸とした改憲に意欲を示し、2020年施行の目標も堅持していると明言した。しかし、国民の中に改憲を求める声は高まっていない。改憲自体が目的になった政権と与党自民党の、乱暴な手続きや発言が目に付くだけだ。

 自民党は18年3月に(1)9条への自衛隊明記(2)緊急事態条項の新設(3)参院選「合区」解消(4)教育無償化・充実強化―の改憲4項目をまとめた。
 このうち参院選の合区解消は、二つの県にまたがって一つの選挙区とする「合区」を改めるものだが、選挙制度の議論であり憲法のテーマとして唐突感が否めない。合区の解消は1票の格差を是認するものだ。国民の権利に関わる重大な問題であるにもかかわらず議論が不足している。
 教育の充実強化については憲法ではなく教育基本法など関連法で十分に対応が可能な内容だ。
 自衛隊を憲法9条に明記することと、緊急時に国民の権利を制限できる「緊急事態条項」を憲法に加えることにこそ真の狙いがある。聞こえのいい教育無償化を付け焼き刃で盛り込み、安倍首相が悲願とする改憲のハードルを下げる思惑ばかりがちらつく。
 自民党の萩生田光一幹事長代行は4月にインターネットテレビ番組に出演した際、今通常国会で一度も開催されていない衆参両院憲法審査会の運営を巡り「新しい時代(令和)になったら、少しワイルドな憲法審査を進めていかないといけない」と発言した。野党の批判で陳謝に追い込まれたが、改正憲法施行に躍起な自民党の本音が表れている。
 それまでの自民党の改憲草案は「自衛軍」の創設や、前文に「国や社会を自ら守る責務」をうたうなど、公益重視の内容だった。国家権力を縛るべき憲法を、国民の権利を制限する方向へと変えていこうというのが首相や自民党が本来持っている憲法観だ。
 共同通信が2~3月に実施した世論調査によると安倍政権下での改憲には反対が54%で、賛成42%を上回った。国民に理解が深まっているとは言えず、それ自体が目的化した改憲の怪しさを国民は見透かしている。
 14年6月にさいたま市で、憲法9条を守ろうというデモを題材にした俳句が、「公平性、中立性を害する」との理由で公民館だよりへの掲載を拒否された。作者への賠償を市に命じる判決が昨年12月に確定した。
 憲法を尊重する義務のある公務員が、憲法を守ろうという内容の表現に「政治的」とレッテルを貼り、排除することは異常というほかない。安倍政権の改憲姿勢が憲法軽視の風潮を生んでいるのではないか。政権がもたらした弊害と言っていい。
 安倍首相は国民の理解が得られない改憲は直ちに断念すべきだ。