<社説>米中貿易協議 対話を続け、妥協点探れ


社会
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 米国と中国の世界二大経済大国が制裁を繰り返す、貿易戦争の様相だ。米中による閣僚級貿易協議は溝が埋まらないまま終了した。米国はすぐに追加関税の拡大を発表し、中国に構造改革を迫る姿勢を鮮明にした。

 両国の対立は世界経済を減速させる圧力となり、悪影響は計り知れない。協議終了後、両国首脳は対話は続けると表明した。双方とも国際社会における責任を自覚し、話し合いを続けて妥協点を探らなければならない。
 米通商代表部(USTR)は、中国からの輸入品のうち、これまで対象外だった約3千億ドル(約33兆円)分に「第4弾」となる追加関税を課す手続きに入ると発表した。トランプ米政権は10日の未明に2千億ドル分に課す追加関税率を10%から25%に引き上げる強化策を発動したばかりだ。
 実行すれば中国からの全輸入品が追加関税の対象になる。そこには米アップルのスマートフォン「iPhone」などの携帯電話やパソコン、おもちゃなど幅広い製品が含まれる見通しだ。約4割が消費財とみられ、生活に身近な製品が含まれる。iPhoneなどは米主力企業への影響も懸念され、もろ刃の剣となりかねない。
 中国経済は昨年から貿易摩擦の影響で減速傾向にある。関税引き上げは米国市場に注力する中国の製造業に直接打撃を与え、関税がさらに上がれば海外企業が中国に置く生産拠点の移転につながる可能性がある。
 ただし、中国側は劉鶴副首相が「原則にかかわる問題では決して譲歩しない」と述べ、対決姿勢を崩していない。大国のメンツを重視する中国が、米国の要求に応じる保証はない。
 閣僚級協議では、知的財産権の保護や産業補助金見直しといった中国の構造改革策や合意内容の順守策を巡り議論した。中国国内の報道によると、中国は、追加関税の合意後の即時撤廃や米国製品の輸入規模の縮小などを求め、米国と対立したとみられる。
 中国は共産党が主導して人工知能(AI)や第5世代(5G)移動通信システムなどの先端産業に補助金をつけ育成する統治モデルを進める。
 しかし、一方で中国による知的財産権の侵害や海外企業から技術移転を強要する手法は国際社会で大きな問題になっている。米国だけでなく多国間で中国にルール順守を求めていくべきであろう。
 米中の対立は世界的に株式市場の混乱を招いている。日本でも中国経済減速の影響が製造業を中心に出始めている。
 トランプ大統領と習近平国家主席は共に強い指導者と見られることが国民の支持につながると考えているようだ。しかし、角を突き合わせたまま対話が停滞する状況は双方に損害を与えるだけでなく、世界経済への損害が膨らむだけだ。