<社説>認知症対策の大綱案 「共生」の理念を忘れずに


社会
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 政府が認知症対策を強化するための新たな大綱の素案を示した。「予防」重視の方針を打ち出したことが特徴だが、もう一つの柱である「共生」の視点に立った取り組みをしっかりと進める必要がある。

 素案では2025年までの6年間で、70代に占める認知症の人の割合を6%低下させることを目指すとした。認知症の人数を抑制する数値目標の導入は初めてだ。70代で発症する時期を10年間で現在より1歳遅らせることで、70代の認知症の人の割合を1割減らせると試算している。
 予防の具体策としては、運動や人との交流が発症を遅らせる可能性があるとして、公民館や公園など身近な場での体操や教育講座など「通いの場」への参加を促した。市民農園での農作業など地域活動も推奨している。
 認知症の治療法はまだ確立されていないが、予防には運動や健康的な食事、禁煙が良いとされており、高齢者の運動不足解消や孤立防止に向けた具体策を進めていくことは評価できる。ただ新たな数値目標の達成に向けて、こうした取り組みでどの程度の効果が見込めるかは不透明だ。
 政府は素案に治療法の開発強化も盛り込んだ。治療薬の臨床試験(治験)に、認知症になる可能性がある人の参加を増やす仕組みを構築するという。「未発症」段階での研究を深めることで発症のメカニズムが解明され、早期の診断や予防法の開発へ道が開けることが期待されよう。ただ未知な部分も大きい。
 認知症対策の科学的根拠がまだ不十分であることは政府も認めている。そうした中で予防重視の方針や数値目標を新たに示した背景には、膨張する社会保障費を抑制したいという思惑がある。
 だが、予防重視の方針に関して当事者や家族からは「認知症になった人は努力が足りないと思われるのでは」と、数値目標が独り歩きすることへの懸念も出ている。有識者からも「認知症にならない社会をつくる、という誤ったメッセージになる」と疑問がある。当事者らのこうした声は正面から受け止めなければならない。
 認知症の高齢者は2015年時点で約520万人と推計されており、高齢者の7人に1人に上る。さらに、団塊の世代全員が75歳以上となる25年には約700万人に達する。認知症の発症原因や予防の科学的効果が十分立証されていない中、加齢によって誰でも発症し得る病気であることを理解することがまずは大切なことではないか。
 政府は大綱の前身となる15年の国家戦略(新オレンジプラン)で、「住み慣れた地域で自分らしく暮らせる社会の実現」を掲げた。認知症になっても地域で安心して暮らすことができるという「共生」の理念だ。その基本精神を置き去りにすることなく、当事者に寄り添って新たな対策を進めてほしい。