<社説>川崎の児童ら殺傷 悲惨な事件の再発許すな


社会
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 子どもたちを標的とした残忍極まりない事件が起きた。

 川崎市の路上で、スクールバスを待っていた6~12歳の児童らを男が次々と包丁で襲ったのだ。保護者2人を含む19人が刺されるなどし、2人が死亡、3人が重傷を負った。男は直後に自分の首を刺して死んだ。
 何の罪もない人々を殺傷した冷酷非道な犯行に絶句する。亡くなった児童、保護者の冥福を祈るとともに、負傷した児童らの一日も早い回復を願う。子どもたちには心の傷の手当ても必要だ。
 このような凄惨(せいさん)な事件をなくすにはどうすればいいのか。2001年には、大阪教育大付属池田小の校舎に男が侵入し児童らを包丁で襲う無差別殺傷事件が起きた。小学1、2年生の児童8人が死亡し、教員2人を含む15人が重軽傷を負っている。
 この時は、学校の安全管理の不備が指摘された。事件の教訓を踏まえ、校門の施錠や防犯カメラの設置といった対策が各地で強化された。
 川崎の事件では、最初の襲撃から自殺を図るまでわずか十数秒だったとみられている。防ぎようのない凶行だったといえよう。
 しかも現場は路上だ。多くの人は、徒歩で通学するよりも、スクールバスを利用した方が犯罪に巻き込まれるリスクが減り、安全と考えるだろう。まさに「想定外」の事態だった。
 だからといって手をこまぬいているわけにはいかない。登下校時に子どもが集まる場所を点検し警察官による重点的なパトロールを実施するよう政府が指示したという。
 大勢の子どもが利用するバス停やスクールバスに警備員を配置するといった対策も検討すべきではないか。
 容疑者は職業不詳の51歳の男だ。現場で見つかった2本の包丁のほか、リュックサックの中に包丁2本を入れていた。手にした包丁は刃渡り約30センチの柳刃包丁のような形状だった。
 殺人の凶器となり得る鋭利な包丁が容易に入手できる現状も、この際、見直す必要があるだろう。事件の再発防止のために、できることを洗い出し、一つ一つ実現の可能性を探らなければならない。
 男は高齢の親族と暮らしていた。公道にはみ出した木の枝が目に当たるとして、近所の女性を長時間、怒鳴りつけたことがあったようだ。常識人であれば決して取らない態度であろう。
 神奈川県警は、短時間で大勢を殺害しようとした可能性があるとみて捜査している。何が男を犯行に駆り立てたのか。予兆はあったのか。動機の解明は不可欠だ。事件の全容をつまびらかにする中から、再発防止の手掛かりが見つかることもある。
 児童を狙った卑劣な犯行が繰り返されることは二度とあってはならない。どうすれば防げるのか、国民一人一人が真剣に考えるべき時だ。