<社説>基地汚染の調査要請 地位協定改定が不可欠だ


社会
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 玉城デニー知事は今月にも上京し、基地内の立ち入り調査を米軍に認めさせるよう政府に要請する。米軍の嘉手納基地や普天間飛行場周辺の浄水場や河川から高濃度の有機フッ素化合物(PFOS、PFOA)が検出されているためだ。

 ただ立ち入りの実現は厳しい見通しだ。背景には、日米地位協定の環境補足協定がある。2015年9月の発効から3年半が過ぎたが、補足協定に基づき自治体が申請する米軍基地内の立ち入りは一度も実現していないことが、国会での外務省答弁で判明した。
 協定の条件が壁になっているからだ。条件とは、基地内を調査できるのは返還日の約7カ月前からという内容だ。さらに日本側が立ち入りを申請できるのは、環境事故について米側が日本側に通報することも前提条件だ。しかも米軍の運用を妨げないなどと米側が判断した場合に限って、調査は認められる。
 協定を締結した際、菅義偉官房長官や岸田文雄外相は「歴史的な意義を有する」と評価した。安倍晋三首相に至っては「事実上の地位協定の改定を行うことができた」と成果を強調した。
 しかし協定はむしろ米軍に都合が良い内容だ。自治体による調査へのハードルを上げただけの「忖度(そんたく)改定」と断じざるを得ない。調査実績ゼロの結果がそれを雄弁に物語る。
 米本国や海外との対応の差は一層際立った。米軍は、米本国では、汚染の有無や地点、物質の使用履歴などを厳密に記録する。使用履歴がない場合は退役軍人の聴き取り調査まで実施する。今回のような事案が発生すれば、重大案件として国や州の環境保護機関が調査に乗り出し、問題化するに違いない。
 ドイツでは米軍に国内法順守の義務があり、自治体は予告なしで立ち入って調査できる。環境汚染も米国が浄化の義務を負う。韓国でも汚染があれば、自治体は米軍と共同で調査ができる。
 一方、日本では、立ち入りどころか、米本国では常識である有害物質の使用履歴もなく、基地内の管理実態さえも公表されない。これでは環境保全とは名ばかりで、無法地帯と言っても過言ではない。
 その元凶は、日米地位協定が定める「排他的管理権」にある。基地内は米国が全権を持ち、日本側は一切口出しできないという他国ではあり得ない権利を与えてしまっている。とはいえ、水源の汚染は重大な問題だ。米国が立ち入りを認めないのは、人道上許されることではない。
 国民の安全安心を確保するのは政府にとって当然の責務である。そのためには、日米地位協定の抜本改定が不可欠だ。自治体の立ち入り調査を認めることや汚染の浄化を米側に義務付ける必要がある。基地内の有害物質の管理と汚染時の対応を米国内の基準に準じて制度化し、順守徹底を米側に求めるべきだ。