<社説>金融庁報告書 自助努力では解決しない

 金融庁が3日公表した高齢社会の資産形成に関する報告書が議論を呼んでいる。年金だけでは老後の資金を賄えず、95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要になると試算した。その上で計画的な資産形成をするよう促している。

 公的年金制度の限界を政府自らが認めたものだ。しかし、2千万円も足りなくなる年金の不足分を、個々の資産運用によって補えと言われても、どれだけの人が対応できるのか。自助努力には限りがある。
 報告書によると、平均的な無職の夫65歳以上、妻60歳以上の高齢夫婦で、公的年金を中心とする収入が月約21万円なのに対し、支出は約26万円となり、月5万円の赤字が生じると試算した。これから20年生きるなら約1300万円、30年なら2千万円不足するという。
 年金とともに老後の生活資金の柱となる退職金も、直近は大学卒が平均2千万円程度で、ピーク時より3~4割減っている。今後も減少傾向は続くとしている。
 報告書は働き盛りの現役世代のうちから、積み立て型少額投資非課税制度「つみたてNISA」などで長期投資をするように促す。 低金利の中、預金を投資商品に振り向けさせたいとの思惑も透けて見える。
 しかし、多くの人は日々の生活に精いっぱいで投資と言われても対応できないのではないか。厚生労働省の調査によると日本人の7人に1人は貧困にあえいでいる。金融広報中央委員会の2017年の「家計の金融行動に関する世論調査」では「運用目的の預貯金」がない世帯が31・2%だった。18年の同調査では「預貯金が全くない世帯」は1・6%だった。
 投資はリスクも伴う。金融庁の昨年の調査では銀行で投資信託を購入した個人の46%が損をしている。資産運用を薦めるなら投資について学ぶ場を拡充するなどの対応が必要だ。
 反発の大きさに、政府は火消しに躍起だ。報告書の発表後に「俺の生まれた年の平均寿命は47(歳)だから」「今のうちから考えておかないといかん」と語っていた麻生太郎財務相は、7日には不足額を「赤字」と表現したのは不適切だったと述べた。
 しかし、平均寿命が延び続けていることは何十年も前から分かっていた。高齢社会を前提とした制度設計を怠っていた政府の責任は大きい。このままでは中高年世代の不安はもとより、若い世代が年金保険料を払い続ける気持ちが薄れてしまうことにはならないか。
 報告書は「100年安心」を喧伝(けんでん)しておきながら、公的年金が危機的な状況にあることを改めて浮き彫りにした。政府は国民に自助努力や自己責任論を押しつける前に、長寿社会に対応した、誰もが安心して暮らせる公的年金制度を確立すべきだ。