<社説>かんぽ生命不正販売 まず顧客の不利益解消を


社会
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 日本郵政傘下のかんぽ生命保険が、保険の不正な販売を繰り返していた。同種の保険を一度解約して再度契約する「乗り換え」で、顧客にとって不利益になる契約を多数結んだ。新契約が認められず無保険状態に陥ったり、新旧契約の保険料を二重払いさせられたりするケースがあった。

 不利益が生じた契約は9万件を超えるとみられる。まずは不正の全容を解明することが先決だ。その上で、契約者が被った不利益の解消に誠意をもって取り組んでほしい。
 かんぽ生命保険は、2007年の郵政民営化に伴い、旧日本郵政公社の簡易保険事業を引き継いで発足した。主力商品である養老保険、終身保険を含め、委託先の郵便局を通じた販売が新契約の9割を占める。中高年層に強いといわれている。
 親会社の日本郵政は筆頭株主が日本政府だ。政府を後ろ盾にする郵政グループで、顧客の利益を度外視した不適切な営業が横行していることなど、誰が想像しただろう。
 背景には過剰なノルマがある。販売を委託された郵便局では、営業成績の悪い局員が上司から叱責(しっせき)されることも珍しくなく、中には「成長期待層」として氏名が内部で公表されるケースさえあった。
 販売成績を上げることが至上命令となり、顧客の利益を顧みない無理な営業が常態化した可能性が大きい。
 社内基準では、新たな契約の締結から前の契約の解約まで6カ月以上間隔が空くと、「乗り換え」よりも営業成績が上がる。そのことが、顧客に保険料を二重払いさせる動機になったとみられる。
 本来なら、新契約の申し込みが審査を通った後で旧契約を解約すべきだが、既存契約を解除した後に新契約の申し込みを審査することが多かった。解約後3カ月以内に新たな契約を交わした場合は成績算入額が少なくなるからだ。
 結果として、解約はしたものの、健康状態が悪化していて新たな契約を結べない人が相当数に上った。無保険状態になるリスクを含め、「乗り換え」を勧める際、どのような説明をしたのか。
 80代の女性が郵便局員に促されるままに書面に署名し、契約をでっち上げられたと家族が訴えた事例もある。解約まで数カ月を要したという。
 同様の手法で、経済合理性が乏しいにもかかわらず、新たな契約に誘導したケースが多々あったのではないか。組織的な関与の有無を含め、疑問は尽きない。
 かんぽ生命は無保険などになった顧客の契約復元や保険料の二重払い分の返還を進める方針を明らかにしている。社外有識者による第三者委員会も設置し、調査するという。当然の対応だ。
 郵政民営化以来、最大の不祥事である。郵政グループへの信頼は失墜した。原因を究明した上で公表し、顧客本位の企業として再出発することが大切だ。