<社説>首相が家族に謝罪 ハンセン病補償に道筋を


社会
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 差別と偏見に苦しみ続けた家族にとって、被害回復の第一歩にしなければならない。

 ハンセン病元患者家族の差別被害を認め、安倍晋三首相は「政府として深く反省し、心からおわびする」との首相談話を発表した。政府による家族への謝罪は初めてとなる。
 首相は今後、差別被害に遭った全ての家族への補償に向け法整備を検討すると表明した。国は責任を持って補償への道筋をつけ、被害救済に尽力してほしい。
 ただ、安倍首相の談話は解決に向けた具体的な方針を示してはいない。
 ハンセン病を巡っては、2001年に元患者本人への賠償判決を受け入れた小泉純一郎首相(当時)が談話を出した。小泉談話は判決の認定額を基準に全ての患者・元患者に新たな補償を立法措置により講じることや、元患者と厚労省とで協議することなどを箇条書きで示した。
 安倍首相の談話は補償措置や人権啓発の強化を挙げたが、それ以上は踏み込んでいない。「判決の認定額が基準」と明示した小泉談話に比べ曖昧な部分が残る。さらに談話に続いて出された政府声明では、国の責任は1996年のらい予防法廃止までだとし、法廃止後も国に偏見差別を除去する義務があったとした家族訴訟判決は受け入れられないとしている。
 法廃止後も偏見差別は残った。家族訴訟の原告の大半が実名を明かしていないのがその証左である。
 家族はその多くが患者と切り離され、家庭を築くことも難しかった。厳しい差別や偏見故に進学や就職を拒まれたり、結婚できなかったりした。秘密を抱えて生きることをいまも強いられている。
 沖縄から見ると、家族への賠償を認めた熊本地裁判決にも問題がある。判決では国の法的責任が、沖縄が日本に復帰した1972年5月15日以降に限定されている。その期日以降に患者がハンセン病療養所に入所していた場合に限って家族への損害を認める内容であり、沖縄は本土よりも救済範囲が狭くなっている。
 しかし、隔離政策などは戦前の沖縄でも国の施策として行われており、米統治下でも継続されてきた。2001年の判決でも沖縄に関して同様の判断が示されたが、議員立法による「ハンセン病補償法」で沖縄も同一基準になった。家族補償について異なる判断をするのは補償法の趣旨に反する。
 旧優生保護法の下でハンセン病を理由に不妊手術などを受けさせられた被害者の家族への問題も残る。今年4月、被害者に対する一時金支給法が施行されたが、家族は対象外だ。偏見を助長する国の政策で被害が拡大した構図は同じだ。
 安倍首相は談話で「家族の方々が地域で安心して暮らすことができる社会を実現する」と述べた。国の責務として実現させたい。