<社説>ロの返還協議拒否 主権の足場まず固めたい

 「衣の袖から鎧(よろい)」が見えたということか。国後、択捉を含む北方四島のうち歯舞群島と色丹島の2島引き渡し協議が暗礁に乗り上げた。安倍晋三首相が進める日ロ平和条約交渉で、ロシア側が日米同盟による脅威などを理由に拒否したのである。

 平和条約交渉は、1956年に日本とソ連(現ロシア)の議会が批准した日ソ共同宣言に基づく。戦争状態の終結や国交は回復したが、「平和条約締結後の歯舞群島、色丹島の日本への引き渡し」の条項だけが実現していない。
 プーチン大統領は2000年の就任直後に同宣言の法的有効性を引き続き認め、歯舞・色丹の2島引き渡しによる領土問題の解決に意欲を示している。
 昨年11月、安倍首相がシンガポールでの会談で56年宣言を基礎にした交渉の加速化を提案しプーチン大統領も同意した。
 日本側はロシア側に配慮し北方四島は「日本固有の領土」との主張を封印してまで譲歩を重ね、全体の面積のわずか7%にすぎない2島の返還で決着を図ったが、足元を見透かされたのは明らかだ。
 伏線はあった。昨年12月にプーチン大統領は、沖縄で民意に反して米軍基地の整備が進んでいることを挙げ、日米同盟下で日本が主権を主体的に行使できているのか疑問を呈している。
 平和条約の締結後の在日米軍の扱いなど、ロシアの懸念に対して「日本側の回答なしにロシアが重要な決定を行うのは難しい」と述べた。
 主権に疑問符がついている原因は言うまでもなく日米地位協定である。本紙が入手した外務省機密文書「日米地位協定の考え方」は北方領土の返還に際しての対応を例示している。
 すなわち「北方領土の返還の条件として『返還後の北方領土には施設・区域を設けない』との法的義務をあらかじめ一般的に日本側が負うようなことをソ連側と約することは、安保条約・地位協定上問題がある」ということだ。
 このような考え方を日本側が今も引き継ぎ、適用する可能性を否定できない以上、ロシア側が疑問を持つのも無理はない。2島返還を巡って日本側にさらなる揺さぶりをかけ、譲歩を迫ってくるのではないか。
 日ソ共同宣言の批准前の1955年にソ連は在日米軍の撤収を条件に領土問題の最終決着をする方針を決定したことが判明している。米国追従の日本の現状が2島引き渡し交渉の足かせになり、今後もロシア側に利用されかねないのは火を見るより明らかだ。
 今回の交渉拒否の背景にはロシア国内で領土問題の譲歩が支持率低下につながる懸念が高まったとの事情もあるようだ。とはいえ地位協定の抜本改定などを含め主権の真の回復がなければ、今後も対等な交渉環境は整わない。足元を固めることから始めたい。