<社説>アニメ会社放火火災 全容解明し再発防ぎたい


社会
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 まれに見る残忍、凶悪な犯罪だ。

 京都市伏見区で、アニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオに男が侵入、ガソリンをまいて放火し、34人もの命を奪ったのである。
 亡くなった方々の冥福を祈るとともに、負傷者の一日も早い回復を願うばかりだ。
 出火時には従業員ら74人が3階建ての建物内にいた。男は1階の玄関から入り、火を付けたようだ。各階がらせん階段でつながっていたこともあって、火の回りが早く、多くの人が逃げるいとまもなかったとみられる。
 死者は3階と屋上をつなぐ階段に集中していた。火の手を逃れて外に出ようとしたが扉が開かず脱出できなかった可能性がある。
 男は身柄を確保された際、「小説を盗んだから放火した」という趣旨の話をしていた。警察は、動機や背景を含め、事件の全容解明に全力を挙げてほしい。
 アニメ制作会社の社長によると、制作者へのクレームや脅迫がたびたび会社に届き、警察に相談したこともあったという。犯行前に、男が何らかの意思を同社に伝えた形跡はなかったのだろうか。
 仮に、予兆のような言動があったとすれば、犯行を未然に抑止する手だてがあったのかもしれない。詳しく調べるべきだ。
 事件当日の午前、似た男が近くの給油所でガソリンを購入していた。20リットルの携行缶二つを台車に載せて運び、バケツに移し替えて放火したとみられている。
 このような凄惨(せいさん)な事件の再発をどうすれば防げるのだろう。あらゆる角度から考察しなければならない。
 まず火災を引き起こしたガソリンだ。引火性の強い危険物だが、法令に適合した携行缶(金属製)を持参すれば、誰でも容易に入手できる。
 発電機などの燃料としてニーズがあるからだ。防犯上の観点から、販売時に身分を確認したり、使用目的を明確にしたりするような仕組みが最低限あってもいい。
 脅迫まがいのメールや電話への対処も検討が必要だ。少しでも恐怖を感じたときは、決して軽視せずに、警察当局などに相談し、毅然(きぜん)とした対応を取るべきではないか。
 火災への備えは極めて重要だ。消火器や警報器が機能するのか、日頃から小まめに点検しておくことだ。いざというときの避難経路の確認も欠かせない。
 京都アニメーションは、テレビアニメや劇場公開作品を数多く手掛けてきた。質の高い作画技術で知られ、国内外で評価が高い。
 芸術文化を創造する担い手を標的にした、冷酷極まりない蛮行によって、放火事件では平成以降最悪の犠牲者が出てしまった。
 事件の全貌を明らかにし、細かく検証することによって、再発防止につなげていく努力が求められる。