<社説>警察の誤認逮捕 人権侵害許してはならぬ


社会
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 警察による重大な人権侵害である。愛媛県警が先月、タクシーの車内から現金などを盗んだとして窃盗容疑で女子大学生を誤認逮捕し、2日後に釈放していた。

 事件が起きたのは今年1月。女子大学生は7月8日に逮捕された。ドライブレコーダーの映像に映っていた犯人と顔が似ていたからだ。その後、別の若い女性が容疑者として浮かび上がった。ずさんとしか言いようがない。警察は女子大学生に謝罪した。
 大学生は一貫して容疑を否認していた。代理人弁護士が公表した手記によると、警察から「タクシーに乗った記憶はないの?二重人格?」「就職も決まってるなら大ごとにしたくないよね?」などと言われたという。大学生は「執拗(しつよう)に自白を強要された。本当に悔しい」と訴えている。
 犯人と決めつけて威圧し、自白を迫る様子が伝わってくる。冤罪(えんざい)事件は、取り調べの際に容疑者を恫喝(どうかつ)するなどして心理的、肉体的に追い詰め、やってもいない罪を認めさせることによって生み出される。自白偏重の捜査の怖さである。
 愛媛県警の松下整本部長は「深く反省している」と述べた。だが、誤認逮捕の問題は一県警にとどまらない。
 警視庁は2016年、傷害事件で誤認逮捕、起訴され、後に起訴が取り消された男性2人に謝罪した。それぞれ約3~4カ月間拘束された。
 徳島県警は17年、コンサートチケットを売るとうそをつき現金をだまし取ったとして、詐欺容疑で逮捕した専門学校生の女性について、誤認逮捕だったと明らかにした。女性は19日間勾留された。
 埼玉県警も、強盗致傷などの疑いで男性を誤認逮捕し、20日間勾留していたことを昨年、明らかにした。
 ほかにも事例はたくさんある。不当な扱いを受けた人たちの苦痛は計り知れない。
 なぜこのような人権侵害が後を絶たないのか。先入観で身柄を拘束し、やみくもに自白を迫る手法が警察組織内で横行しているのではないか。
 本来、逮捕は逃亡や証拠隠滅を防ぐことが目的だ。それ以前に、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がなければならない。
 愛媛県警の誤認逮捕では、女子大学生に逃亡の恐れがあったとは考えられない。そもそも証拠が不十分で、相当の嫌疑があったとも言えない。極めて不適切な権力の行使である。警察のずさんな捜査に加え、逮捕状を発する裁判官の審査の在り方も問われてしかるべきだ。
 映像に映った犯人と年格好が似ているだけで逮捕されたのではたまったものではない。現状では、誰もが「被害者」になる可能性がある。
 再発防止のためには、誤認逮捕の一つ一つを検証し、問題点を組織全体で教訓化することが不可欠だ。無実の人間を逮捕することがあってはならない。