<社説>日米貿易交渉合意 国力かさに押し切られた

 国家間の交渉では、双方がメリットを感じるような結果を残すことが肝要といわれる。国力をかさに着たトランプ米大統領が相手では、望むべくもないのだろうか。

 日米両政府が貿易交渉の大枠合意を発表した。米国産牛肉など一部農産物の関税が引き下げられる。トランプ氏がちらつかせていた自動車への追加関税は日本に発動されない見通しだ。
 米国が離脱する前の環太平洋連携協定(TPP)では、米国の乗用車関税2・5%を25年かけて撤廃することになっていた。米国産牛肉への関税(38・5%)は最終的に9%まで引き下げるという合意内容だった。
 交渉の結果、米国産牛肉などの関税はTPPの水準内で引き下げられる見込みだが、日本が求める自動車関税撤廃は見送られた。日本だけが譲歩を重ねたように映る。
 その上、日米首脳会談で、米国産トウモロコシ約250万トンの追加輸入まで約束させられた。米中貿易摩擦の影響で中国への農産物の輸出が減っている。トランプ氏の求めに応じ、余った分を引き取る格好だ。
 日本政府は、国内で新たな害虫が発生したことを受けて備蓄を積み増すと説明しているが、取って付けたような理由との印象は否めない。
 農産物の貿易は、国家が輸入を管理するコメや小麦を除いて、民間企業が自主的な判断で輸入の時期や数量を決めている。収益性の観点からは、需要もないのに輸入を増やすことはあり得ない。そのため、配合飼料メーカーが備蓄する際の経費などを政府が支援する方向という。
 安倍晋三首相はこれまで、トランプ氏の機嫌を取るためゴルフなどを通して懐柔に努めてきた。米国側に求められ、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦することまでやってのけた。「たいこ持ち」に徹したことで、どんな要求でも受け入れるという印象を与えてしまったのではないか。
 トランプ氏は日本車への追加関税について、現時点で検討していないとの考えを示した。とはいえ、予測不能といわれる大統領だ。決着点は見通せない。
 自動車関税については粘り強く撤廃を求めるしかない。自動車の輸入が米国経済にもたらしている利益は無視できず、高関税に否定的な意見も米国内には根強いという。一度はTPPで合意したのだから、望みはあるだろう。
 米国から日本に輸出される牛肉や乳製品など幅広い品目が関税撤廃・削減対象になると米側は説明した。早ければ年内に発効するというが、合意内容は不明な点が多い。政府には、協定署名の前に詳細を説明する責任がある。
 市場開放が進み、価格の安い牛肉や豚肉が流通することによって、農家が打撃を受ける恐れがある。日本の農業を守るため、きめ細かな施策が不可欠だ。