<社説>年金財政検証 問題の先送り許されない


社会
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 公的年金の長期見通しを5年に1度試算する財政検証の結果を厚生労働省が公表した。現役世代の平均手取り収入に対する年金受給額の割合「所得代替率」は2047年度以降、50・8%で下げ止まるとの見通しが示された。

 政府が掲げる「代替率50%維持」は達成される見込みというが、経済が順調に成長することを前提にしており、額面通りには受け取れない。
 「50%」の水準は65歳の受け取り開始時点であり、年齢を重ねるにつれて目減りする。将来的な給付水準は大きく低下することになる。
 国民年金(基礎年金)は20歳以上60歳未満の全国民が加入する。会社員や公務員などはこれに上乗せする形で厚生年金に加入する。現役世代が支払った保険料を高齢者への年金給付に充てる仕組みだ。
 検証によると、経済成長と就業が進む標準的なケースでも、約30年後にモデル世帯の年金の実質的な価値は2割近く減る。基礎年金部分に限れば約3割低下するという。
 経済成長が滞って不況に陥った場合は、さらに給付水準は下がる。自営業や短時間労働者など国民年金だけを受給する人は、特に深刻な事態に直面する。
 国民年金は保険料を40年納めていても満額月約6万5千円だ。納付期間が短いと受給額は下がる。蓄えがなければ生活は成り立たないだろう。
 少子高齢化によって、保険料を支払う現役世代は減り、年金を受け取る高齢者は増えている。若い世代ほど老後の生活は厳しくなる。
 試算では、現在20歳の世代が老後に現在と同じ水準の年金を受け取るには66歳9カ月まで働いて保険料を納め続けなければならない。
 年金の目減りを抑えるには、厚生年金の適用対象を拡大するなど、実効性のある対策を講じる必要がある。
 今や働く人の4割が非正規労働者だ。専業主婦のパート層や若年・中年層の非正規労働者が厚生年金に加入すれば、給付水準の改善が見込まれる。保険料は労使折半で負担するため、企業側の理解が不可欠であろう。非正規労働者を正社員化する取り組みも極めて重要だ。
 支払う人が減る一方で受け取る人が増え続ける以上、年金財政の悪化は避けられない。これ以上、現在の付けを将来の世代に先送りすることは許されない。世代間の不公平を是正するための改革が求められる。
 気になるのは政府の及び腰の姿勢だ。「財政検証」は5年前、6月に公表されていたが、今回は8月下旬までずれ込んだ。参院選で攻撃材料にされることを嫌ったからだと考えられる。
 「試算に時間を要した」という根本匠厚労相の釈明が本当なら、驚くべき怠慢である。国民生活に密接に関わる課題だけに、政府の勝手な都合で公表を遅らせることがあってはならない。