<社説>急増する宿泊施設 地域が恩恵感じる観光を


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 観光客の増加に伴い、県内各地でホテル建設が活発だ。県が発表した2018年の実態調査によるとホテルや民宿、ペンションといった宿泊施設数は前年から406軒増加の2488軒となり、過去最大の伸び幅となった。

 世界的に名高いブランドのホテルが進出することも最近では珍しい話ではなくなり、国際的な観光リゾート地の形成が進むことは関係者の努力のたまものといえる。一方で、急速な受け入れの拡大は住民生活や自然環境への負荷となることも心しなければならない。地域との調和と共生を図る観光振興の方向性が一層重要になってくる。
 県内の宿泊施設軒数は17年も前年比14・2%増の高い値を示していたが、18年は19・5%増と増加ペースがさらに拡大した。過熱する観光投資が数字に表れている。
 この傾向は今年に入っても衰える気配がない。県が把握するだけで今後も30~40軒の建設計画があるという。
 県は観光客1200万人の目標には5万6千室の客室数が必要になると試算し、「目標を達成するにはまだ足りない」と現状認識を示す。
 だが、離島県沖縄の土地や資源は限られる。現在のようなペースで受け入れ施設を拡大することはいつまでも続けられるものではない。既にその兆候が見え始めている。
 地域のインフラの許容量を超えて観光客が押し寄せ、渋滞や騒音、ごみの増加、水不足など住民の生活環境が悪化する事態は、世界の観光地で「オーバーツーリズム」と呼ばれて問題になっている。
 共同通信が外国人観光客の増加に伴う住民生活への影響を全国の自治体にアンケートしたところ、沖縄では県と11市町村が既に影響が「起きている」と回答した。さらに11市町村が「今後起きる懸念がある」と答え、県内41市町村の過半数が観光客急増による弊害や懸念を抱えている。
 大型ホテルや富裕層のセカンドハウス向けマンション用地の取得に伴う高額な土地取引は、全国一の上昇率という沖縄の地価高騰にもつながっている。八重山地域では景観や住環境が損なわれるとして開発計画に地元住民が反発する動きが見られる。
 業界では新たなホテル進出で人手不足の深刻化や競合の激化は避けられず、資本力の弱い地元の老舗ホテルほどそのしわ寄せを受けやすい。
 街中の観光客は増えても地元住民や事業者に恩恵が感じられず、かえって負の影響が大きくなるようでは、本末転倒だろう。
 開発や受け入れを一定程度規制してでも地元の利益を優先する方が、沖縄の大切な観光資源である自然や地域社会を守り、ひいては持続可能な観光地として業界全体の利益になるはずだ。観光目的税、景観保全条例など地域と観光開発の共存を図る施策について、行政や議会で住民本位の議論を深める必要がある。