<社説>宮古島市の提訴方針 市民の言論の自由脅かす


社会
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 健全な民主主義が機能するためには言論、表現の自由の保障は欠かせない。こうした自由を、まがりなりにも為政者ら優越的地位に立つ者が威嚇し萎縮させるなど、あってはならない行為だ。厳に慎むべきである。

 宮古島市が、住民訴訟を提起した市民を相手に提訴する手続きを進めている。名誉を毀損されたとして損害賠償を請求するという。
 2014年度に市が実施した不法投棄ごみ撤去事業を巡る住民訴訟が今回の提訴方針の発端だ。市民が市長に事業費の返還を求めたが、市民側の請求はいずれも棄却され、最高裁で判決が確定した。
 市側は「住民訴訟の原告は、自分たちの訴えが最高裁まで全て棄却されたにもかかわらず、報告会や報道などを通じて誤った主張を繰り返してきた」と主張している。
 損害賠償の請求額は1100万円だ。内訳は640万円が訴訟費用、460万円が賠償金となっている。
 訴えを提起するには地方自治法に基づき、議会の議決が必要だ。
 市議会へ提出した議案書を見ると、名誉を毀損された事実とは住民側が法廷などで公然と「曲解して誤った主張」を繰り返したことだという。
 もちろん宮古島市など地方公共団体にも名誉権は保障される。そうだとしても市側は裁判で、住民側の「曲解した」事実の誤りをただす機会があったはずだ。
 宮古島市は人的にも資金的にも一住民とは比較にならないほど優位な立場にある。広報体制も整っている。名誉を毀損されたというのなら市民に事実関係をきちんと説明すれば済む。
 市民の請願行為や行政への苦情、環境問題、開発行為などを批判する発言に対し、企業や政治家、公務員などが提起する民事の不法行為訴訟はスラップ訴訟と呼ばれる。
 市民に過度な負担をかけることが目的で、訴訟の勝敗に関係なく起こされるケースもあるという。
 こうした訴訟行為は言論、表現活動に対する報復に等しく、看過できない。
 宮古島市が提訴に至れば、言論の自由の萎縮を招き、影響は計り知れない。市民への訴訟は見合わせるべきだ。
 宮古島市の不法投棄ごみ事業の訴訟で市民側の代理人を務めた弁護士は、市の提訴方針に対し「政策に異議を述べる住民に対し、どう喝をする目的で提起する訴訟と考えざるを得ない」と指摘する。
 物量に劣る市民側が訴訟に対応する費用、時間などで消耗を強いられるのは明らかだろう。住民側が「曲解」していると市は主張するが、市民の誤解を招かないよう説明を尽くす責任が市にはある。
 自由な言論や表現によって地方自治は活性化する。公権力を背景に、住民の口封じを図るかのような訴訟を起こすことは地方自治の自殺行為に等しい。