<社説>日米貿易協定合意 畜産への影響懸念される


社会
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 安倍晋三首相とトランプ米大統領が貿易協定締結で最終合意した。日本は8千億円近い米国産農産品の関税を撤廃・削減する。特に海外の安い牛肉や豚肉との競争がますます拡大することとなり、県内畜産業に影響が出ることが懸念される。

 米国産の牛肉や豚肉の関税は環太平洋連携協定(TPP)と同水準まで引き下げられる。現在の38・5%の牛肉の関税は段階的に削減し、最終的に9%となる。米国産豚肉の高価格品にかけられている4・3%の関税も最終的にゼロになる。
 大規模牧場経営でコスト面の競争優位性がある米国の畜産業を相手に、手間をかけて牛を肥育する日本の畜産農家が、関税の引き下げで打撃を受けるのは必至だ。飼料価格が上昇傾向にあるなど経営コストが増している中で、生産者の事業継続の意欲をそぐことになりかねない。
 牛肉や豚肉の価格が安くなることは一般家庭には恩恵と感じるかもしれない。だが、輸入農産物との価格競争で国内産の消費が減り、相場全般が下がれば、農業の比重が大きい山間部や離島の雇用、経済を確実に衰退させる。
 2017年の県内農業産出額で肉用牛は228億円を記録し、今やサトウキビの168億円を上回る農業分野の稼ぎ頭だ。関税引き下げによる畜産業への影響は、県経済にとっても無視できない。
 既にTPPや日欧経済連携協定(EPA)が発効する中で、米国との新たな貿易協定が発効すれば、畜産農家はさらなる試練にさらされる。
 もともとトランプ大統領は、自由貿易圏の拡大を掲げたTPPから「永久に離脱」すると宣言し、自国の利益を優先した「米国第一」の保護主義路線へかじを切った。
 TPP交渉の際に日本政府は、農業団体などの反対を押し切りコメの輸入拡大や牛肉関税の引き下げを容認した。今回の米国との協議でコメの無関税枠は回避したものの、牛肉や豚肉などの関税で米国の農家はTPPと同じ恩恵を受けられるようになった。
 一方で、米国のTPP離脱前には盛り込まれていた自動車や自動車部品の関税撤廃について、米国は一切を認めなかった。むしろ、トランプ大統領に日本車への追加関税の発動に踏み切らせないよう、TPPから大幅な後退となる条件を日本がのむことで決着を急いだような格好だ。
 相手国に追加関税をちらつかせて自動車など自国産業を保護し、競争力のある分野で輸出拡大を狙うトランプ流の外交であり、その手法にまんまと乗せられた日本政府の弱腰は将来に大きな禍根を残すものだ。トランプ外交も交渉に勝利したように見えて、長い目で見れば友好国との間にしこりを生み、米国の国益を損ねることになるだろう。
 今回の貿易交渉の経過と結果を分析し、米国との関係を考え直す機会とすべきだ。