ダライ・ラマ講演 未来をより良く変えよう


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 21世紀をより良い時代にするため、非暴力の実践、対話による相互理解で平和を築く努力が必要―との指摘に全面的に賛同したい。

 ノーベル平和賞受賞者でチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世が、那覇市で開かれた沖縄特別講演「困難を生き抜く力 未来を生きる青年に語る」で約3500人の聴衆を前に説いた。
 戦争暴力の被害者が2億人に上った「暴力と流血の世紀」としての20世紀を教訓に、人類が目指すべき道筋を示した。深い洞察と慈しみの心を率直に受け止めたい。
 「非暴力の実践」は、インドの偉大な指導者ガンジーの「非暴力主義」や、紛争の平和的解決をうたう国連憲章の精神にも通じる。民族や宗教、思想信条の違いを超えた、人類が共有すべき普遍的価値だと確信する。
 ダライ・ラマは「人間は核に関する知識を得た結果、余計な苦しみ、破壊、恐怖という副作用が登場してしまった。核兵器をつくり、広島、長崎へ落とされた」と述べた。人間の知性と愚かさは紙一重なのかと考えさせられる。
 「核なき世界」を提唱し、ノーベル平和賞を受賞したオバマ米大統領は軍産複合体などから有形無形の抵抗に遭い、崇高な理念を実現できるか危うい状況にある。
 しかし、究極の暴力である核の廃絶なくして、人類は真の平和を手に入れることはできまい。人類は2氏の提起を重く受け止め、核による破滅ではなく、核廃絶による共存共栄を追求していくべきだ。
 ダライ・ラマがボランティアの方々に語った言葉も重い。尊い命が奪われた沖縄戦に言及した上で「平和というものは祈りによって達成できるものではない。人間のよき行いを実行することによって成し遂げられる」と述べた。平和構築に向け、若い世代の責任と行動力へ期待をにじませた。
 沖縄は今、二つの困難に直面している。垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの強行配備と、尖閣諸島の領有権をめぐる日中対立だ。
 両問題とも生身の人間の命と人権が軽んじられてはならない。すべての当事国、関係者は非暴力的手段と対話によって問題を解決する姿勢を堅持すべきだ。
 過去の歴史は変えられないが、未来はより良く変えられる。過去と未来の橋渡しである、わたしたちの歴史観と志も問われている。