米国法で警告板 時代錯誤甚だしい悪法適用


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 沖縄戦で多くの米兵が犠牲となり、血であがなった島を今も占領地とみなしているのだろうか。

 軍事を最優先する米国の独善がくっきり表れ、基地に抗(あらが)う県民を排撃する本音がさらけ出された。
 在沖米海兵隊が普天間飛行場の野嵩ゲート前で立ち入りを禁じる警告板を設置し、「米国国内治安維持法」を根拠にしていた。
 設置は、海兵隊のオスプレイが配備された10月1日だった。ゲート封鎖を試みる市民の体を張った抗議が強まり、厳戒態勢が敷かれた日である。
 「制限区域につき、関係者以外立ち入り禁止」「許可を得て立ち入る者は所持品検査に同意したものとする」と記し、根拠法に「合衆国法797号」を挙げていた。
 これこそ、悪名高い米国の治安法だ。共産主義者を容赦なく排除する「赤狩り」が吹き荒れた1950年に制定された。
 反共の色が濃く、言論や思想・信条の自由を縛る危うさが指摘され、反対の声が噴き出した。連邦最高裁が93年に違憲判決を下し、主要な条文が削除されている。
 この悪法を今日の沖縄に適用するとは、時代錯誤も甚だしい。その目的は、県民との摩擦がかつてなく強まったことに自衛意識を働かせ、オスプレイ配備に猛反発する県民を威圧することだろう。
 日本の主権を飛び越えて、世紀の悪法を臆面もなく掲示する無神経さにあぜんとする。
 外務省が「不適切」と申し入れ、警告板が撤去されたのは当然だが、本来であれば、主権侵害に強く抗議すべきだ。対応が甘い。
 基地をめぐる米国と沖縄の埋め難い溝を照らし出した問題を、海兵隊の単なる手違いと片付けるわけにはいかない。その核心には、米国に染み付いた沖縄観がある。
 ケビン・メア米国務省日本部長が「沖縄はゆすりの名人で怠惰」などの暴言を放ち、更迭されたことは記憶に新しい。県民が基地押し付けにどれだけ異議を唱えても、強硬姿勢で押せば、組み敷くことができるという不遜な態度は、米国と軍のゆがんだ沖縄観を投影していよう。
 米軍は「良き隣人」政策を掲げ、県民と親善を深めたいと強調する。その取り組みに携わる在沖米総領事館は一体何をしているのか。都合の良い情報だけを本国に送り、県民感情の深層に背を向けてばかりいるから、このような騒動を招く。米外交は軍の言いなりなのか。