公営住宅入居 生活弱者「優先」を確実に


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 これでは「?」が付くのも無理はない。母子・父子世帯や障がい者、生活保護費受給など「優先世帯」が公営住宅に入居する際に、県内の多くの自治体が採用している「倍率優遇方式」のことだ。

 那覇市の場合、優先世帯は1次抽選を免除、一般世帯の申込者は1次抽選で半減され、2次抽選から優先世帯と一般世帯を混ぜて抽選する。しかし年20~30戸の募集に対し、申し込みは千件以上だ。優先世帯は落選が続くとさらに優遇されるが、それでもハードルは高い。
 県営団地も当選確率を上げる倍率優遇方式だ。今年9月にあった県営住宅の空き家待ち募集では、238戸の募集に対し、約4700人が応募。人気エリアの団地は100倍以上の倍率になる。子ども2人で母子世帯の女性からは「県営住宅に10回以上申し込んだが、当選したことはなかった」との不満も漏れるほどだ。
 琉球新報が県内自治体にアンケートして浮かび上がった実態だが、「これでは何のための優先?」と首をかしげざるを得ない。優先規定自体を設けていない自治体もあり、改善の余地が大きい。
 県外では優先世帯の募集枠を設ける「戸数枠設定方式」、困窮度合いを数値化する「ポイント方式」もある。長崎市では1回当たり40~60戸を募集し、うち約3割を一般世帯とは別枠で優先世帯だけを対象に抽選している。
 県内でも個別枠設定方式などを導入し、優先度を実感できるようにするべきだ。戦後の米軍統治下で福祉政策が立ち遅れたほか、県民所得が低く一般でも公営住宅需要が高いなど沖縄特有の事情もあろう。しかし、生活困窮世帯にしわ寄せがより強く出る実態を放置しておくわけにはいくまい。
 家計に占める住宅関連支出の割合は大きい。そこへの支援は生活を安定させ、教育費などにも支出を回せる相乗効果も生みやすい。子育て支援の一環として見ることもできる。
 生活困窮者支援が大きな課題となる中で、国は「生活支援戦略」を策定中だ。社会全体で「貧困の連鎖」防止を図るのが狙いで、住宅支援策もその柱の一つだ。
 一括交付金を活用し、民間アパートを借り上げて母子世帯に期間限定で提供する沖縄県のモデル事業も7月から始まった。他の市町村も「待ちの姿勢」ではなく、実情に応じた対策を進めてほしい。