物価目標導入 政策総動員し内需喚起を


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 鮮やかな転換と呼ぶべきか、政治への屈服と見るべきか。日本銀行の白川方明総裁が来年1月に物価目標(インフレターゲット)を導入する考えを示唆した。
 ただ、デフレ克服は金融政策だけでは達成できない。労働政策なども総動員する必要がある。政府はぜひ消費意欲を刺激し内需を喚起する政策を組み立ててほしい。

 日銀は従来、結果責任を問われかねない「目標」という呼び方を嫌い、あくまで「めど」と述べてきた。しかもバブル期ですらインフレ率は1%台前半だったと述べ、「めど」は「2%以下のプラス」、「当面は1%を目指す」との方針だった。
 これに対し自民党の安倍晋三総裁は「めどという表現はあいまいで日銀の責任が伴わない」と批判し、2%の物価目標設定を求めていた。「日銀の独立性が損なわれる」との批判もあったが、中央銀行に必要なのは手段の独立性であり、政策目標の独立性ではないと反論していた。
 確かに、英国や豪州などは物価目標を導入しており、白川総裁が言う通り「現在では世界の共通理解になっている」側面はある。
 しかし導入を決めた要因はそれだけではなかろう。安倍氏は日銀法改正に言及していた。安倍氏に近い議員の改正案では「目標未達の場合は総裁を解任できる」と規定していた。猛烈な政治的圧力に屈したとの印象は否めない。
 政府と日銀は2%の物価上昇を明記した政策協定を結ぶことになろう。ただ、企業はアジア各国との価格競争にさらされており、家電品などが軒並み下落する中では、「食料品などの生活必需品が2桁上昇しないと2%は達成できない」と指摘する専門家もいる。
 インフレの中、雇用は増えず不況が続くスタグフレーションの可能性もある。物価目標が一人歩きすると経済を破壊しかねない。状況に応じた柔軟な采配が必要だ。
 不況を脱するには物価が上がれば良いわけではない。金融緩和も、だぶついた資金が投機に回るだけでは無意味だ。モノやサービス購入の実需のある若者、子育て世代に所得を移転し、内需を喚起する必要がある。
 それには非正規雇用を増やした労働政策の転換が不可欠だ。金融緩和の結果が企業の設備投資や賃金、雇用の増大に反映する必要もある。こうした点にも目配りした総合的な政策が求められる。