訪米前埋め立て申請 沖縄の主権こそ取り戻せ


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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画で、政府は2月で調整している安倍晋三首相の米国訪問の前に、公有水面の埋め立て申請を行う方向で検討しているという。到底認められない。

 県知事、県議会、県内41市町村の全てが県内移設に反対し、県外・国外移設や閉鎖・撤去を求めている。沖縄の民意に反して手続きが進むとしたら、政府が沖縄県民を生身の人間と見なしていないと宣言するに等しい。沖縄は「政治的無人島状態」ではない。こうした差別的な扱いがまかり通る民主国家など世界のどこにもあるまい。
 「日本を、取り戻す。」を方針に掲げて衆院選を戦った首相が訪米時の手土産として埋め立て申請を行うのなら、普天間移設の問題では日本を取り戻すどころか「沖縄を米国に差し出す」ことにしかならない。
 現在、県外移設を求める県の立場を説明するため、又吉進知事公室長が訪米している。こうした中、政府でこれと正反対の動きが表面化することは許しがたい。安倍首相は選挙後の先月21日の会見で「名護市辺野古沖に移設する方向で地元の理解を得るため努力したい」と述べていたが、これが果たして地元の理解を得る努力をしていると言えるのか。県民を愚弄(ぐろう)しているだけではないか。
 移設計画の環境影響評価書の補正書は昨年12月に県に提出され、現在は公告縦覧中だ。知事意見は評価書について「環境保全は不可能」と断じた。補正書も県の疑問に十分答えた内容とはなっていない。手続きの体裁を整えながら環境への影響を本気で考えるよりは、計画をごり押しすることを優先しているだけにすぎない。
 補正書は野田民主党政権が衆院選で惨敗後、新政権に移行する前に提出されている。安倍政権がこの手続きを検証もせず、次の作業に進むなら前政権と同様、甚だしい思考停止と言わざるを得ない。
 ニューヨーク・タイムズが昨年の社説で「地政学的優位性が地域の懸念に勝ると(米軍駐留を)正当化する日米両政府に重視されていないと県民は感じている」と指摘した。日本政府よりも同紙の方が県民の気持ちを理解しているのは皮肉な話だ。
 安倍政権は日米関係の正常化へ向け、沖縄の主権こそ取り戻すべきだ。それには埋め立て申請を見送り、民意を尊重するのが賢明だ。