ゾウムシ根絶 ブランド化へ道開く一歩


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 沖縄農業の発展可能性に道を開く確かな一歩だと歓迎したい。サツマイモなどに寄生して甚大な被害を与える特殊病害虫・アリモドキゾウムシが、久米島から実質的に根絶されたことが確認された。

 18年余にわたり、根絶事業に取り組んだ関係者の労苦をねぎらい、たたえたい。駆除方法は、ウリミバエ根絶で培われた「不妊虫放飼法」が採用されたが、甲虫類の根絶は世界初で、防除技術的にも特筆されよう。
 放射線で不妊化した雌雄を大量に野外に放出することで、野生種同士が交尾する機会を奪い、最終的に根絶させる仕組みだ。久米島ではさらに、雄をフェロモンで引き寄せて誘殺する「雄除去法」も併用され、効果を上げた。
 今後、植物防疫法に基づく公聴会や農林水産省の省令改正手続きを経て、本年度中にも久米島での根絶が正式に宣言される。現地で紅イモのブランド化に取り組む生産農家にとっても大きな追い風になるのは間違いない。
 アリモドキ-根絶は疑いようのない偉業だが、農作物の県外出荷への一里塚にすぎないことも踏まえておく必要がある。久米島には、同じくサツマイモを食害する特殊病害虫イモゾウムシが存在し、その根絶も不可欠だからだ。
 イモゾウムシ根絶でも不妊虫放飼法が用いられるが、アリモドキ-で誘殺効果を発揮したフェロモンは、残念ながらまだ見つかっていない。県内全域で根絶事業を本格展開する上で、フェロモン発見が喫緊の課題であり、調査研究態勢に万全を期してほしい。
 1993年に県内全域でウリミバエを根絶したことで、沖縄産のゴーヤーやマンゴーなどの県外出荷が可能になった。マンゴー生産量は80年は6トンだったが、2010年には1711トンと285倍に増えたことでも害虫駆除の経済波及効果の大きさが分かるはずだ。
 江戸時代に琉球から薩摩藩を経て全国に広まったサツマイモだが、「本場」のブランドを沖縄から全国に売り込めれば、沖縄農業に大きなインパクトを与えることは想像に難くない。
 アリモドキ-が根絶された久米島へは、イモやウンチェー(エンサイ)などの寄主植物の持ち込みは一切禁じられる。仮に再発生すれば全て水泡に帰すからだ。周知徹底など関係者の取り組みは引き続き重要だが、県民一人一人も責任の大きさを自覚したい。