学校6日制 性急な導入論議は危うい


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 下村博文文部科学相が、学力向上を目指して小中高校の授業日数を週6日制に戻す意向を示し、文科省が導入に向け検討を始めた。

 児童生徒の教育環境だけでなく、教師の増員、家庭、地域社会との関係の在り方にも影響する重大問題である。自民党が政権公約に掲げた「世界トップレベル」の学力を実現する狙いがあるのだろう。
 下村氏が主眼に置く学力向上を含め、児童生徒をどう育むのか。教育の根幹に関わる国民的議論は決定的に不足している。子ども不在に映る週6日制の提起に唐突感が否めない。
 学校週5日制は1981~82年に臨時教育審議会が答申し、92年に月1回の土曜休業でスタートした。その狙いは学校と家庭、地域社会が連携を深めつつ、「ゆとりある中で、子どもたちが自ら学び考える力を育むこと」だった。
 働き過ぎが指摘され、欧米諸国などから総労働時間を減らすよう求められた日本社会が週休2日制に移る流れと連動し、2002年から週5日制が完全実施された。
 学校の週休2日は浸透している。週末に子どもと触れ合う時間が多くなり、家庭の教育力を見詰め直す機運は高まりつつある。県内でも、地域のボランティア清掃や伝統文化を学べる体験学習などに親子が一緒に参加し、絆を深めている。スポーツや塾を含め、土曜日を活用する意識は高まっている。
 「ゆとり教育」実施後に低下した学力の立て直しを名目に、学習指導要領が改定されて授業時間が増えた。一部の公私立学校で土曜授業を実施するようになった。
 週6日制は「6・3・3・4」の学制改革など、安倍カラーを前面に出した教育改革案の一環である。下村氏は「世論の理解はある」として、教育再生実行会議での検討はせずに導入日程を詰める考えだが、明らかに性急である。
 社会の理解に向けた全国的な議論も沸き起こらない中、「世論の理解」の根拠は薄弱だ。ゆとり教育見直しによって学力や家庭、地域の教育力がどう改められたのか、その結果が明確でなく、検証されないうちに、学力向上の決め手として週6日制が独り歩きしてはならない。
 土曜授業には、教職員の週40時間勤務を解決せねばならず、増員は不可欠だ。財政難にあえぎ、少人数学級実現に向けた対応も十分でない中、教員増のハードルも高い。国民論議を尽くすべきだ。