生活保護引き下げ 拙速避け議論を尽くせ


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 生活保護の支給水準(生活扶助の基準額)引き下げの動きが政府・与党内で具体化してきた。田村憲久厚労相が2013年度からの引き下げを言明、慎重姿勢だった公明党内でも容認論が出てきた。

 生活保護の支給水準は5年に1度検証が行われており、政府・与党の調整が大詰めだが、あまりにも「引き下げありき」で議論が進んでいないか。「最後のセーフティーネット(安全網)」である生活保護水準の引き下げは社会の基盤を揺るがす恐れもある。拙速を避け、なおも慎重に議論すべきだ。
 引き下げの根拠となったのは、社会保障審議会の部会がまとめた検証結果報告書だ。夫婦と子ども2人の4人世帯では、低所得者の生活費15万9200円に対し、生活保護支給額は18万5500円と14・2%の差があるなど、適正化を図る必要があるという。
 しかしなぜ、生活保護水準を引き下げることで「適正化」を図るのか。低所得者の水準を底上げすることで不公平感をなくす施策こそ、強化すべきではないのか。
 生活保護をめぐっては、最低賃金で働いた場合より支給額が多い「逆転現象」も一部地域で起き、見直しの理由にされているが、これもまずは最低賃金を改善して均衡を図るのが筋だろう。
 むしろ、生活保護水準の引き下げは最低賃金の引き下げを招く懸念さえある。生活保護の基準は就学援助や住民税非課税など他の福祉水準とも連動しており、引き下げの社会的影響は大きい。
 そうなると、消費者の手控え感も強まり内需は余計に冷え込む。デフレ脱却を目指す安倍政権の経済政策上もおかしくはないか。
 生活保護受給者は211万人余と過去最多となり、財政上も大きな課題とされる。しかし、日本の生活保護費(社会扶助費)がGDPに占める割合は0・5%で、OECD加盟国平均の7分の1にすぎないといった、日弁連などの指摘もある。支給水準引き下げによる財政上の効果もそれほどないとの見解だ。
 厚労省は支給水準見直しの一方で、不正受給対策、生活保護に至る前の生活困窮者の就労・自立支援策を強化して、総合的な取り組みを進める方針という。
 確かに、不正受給対策、自立支援策は重要だ。しかし、支給水準引き下げを一緒にやる必要が本当にあるのか。疑問は拭えない。