部活体罰問題 生徒本位で入試中止再考を


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 大阪市立桜宮高の男子生徒が部活動顧問から体罰を受けた後に自殺した問題を受け、橋下徹市長が同校体育系学科の今年の入試を中止する意向を表明した。また、校長をはじめ全教員を別の学校に異動させるよう市教育委員会に要請していたことも明らかになった。

 入試中止で影響を被るのは何ら罪のない受験生であり、同じく被害者とも言える残された生徒らへの配慮も著しく欠いている。こうした懲罰ありきの処分がなされた場合、受験生は急な志望変更を余儀なくされるなど混乱は必至で、深く憂慮する。
 橋下市長の入試中止方針は、あまりに近視眼的で独断専行と指摘せざるを得ない。
 橋下市長は「過去の連続性を断ち切る必要がある。こんなことで募集を続けるとなれば、大阪の恥だ」と述べた。体罰は根絶しなければならないが、その具体策が生徒の受験機会を奪う入試中止というのは乱暴過ぎる。学校の主人公である子どもたちが安心できる学校運営はどうあるべきか、冷静に検討し直してほしい。
 市教育委員会は21日の会議で入試を実施するかどうかを最終判断するが、橋下市長は市教委が入試中止を拒否した場合、予算面で対抗措置を取る考えも示している。予算執行権を振りかざして服従を迫るような政治手法は、市長の政治権力を盾にした「脅迫」とのそしりを免れない。
 学校現場から教師の体罰がなくならないのはなぜか。それは暴力だけでなく暴言や威嚇も含まれる体罰が、先生と生徒の圧倒的な力関係の差を背景にしているからだろう。そうした意味で、橋下市長が市教委に入試中止や教員の総入れ替えを強要することは、体罰を是認する考え方と同根ではないか。
 橋下市長の入試中止方針に対して、大阪弁護士会の有志が入試実施を求める声明を出した。市議会の公明、自民、民主系の3会派が「到底賛成できない」とする要望書を提出し、在校生の父母らも「子どもの夢を奪わないでほしい」と訴えている。
 橋下市長は「世間の無責任な意見に耳を貸す必要はない」と方針転換を拒否するが、まずはきちんと生徒や父母らの意見に耳を傾けるべきだ。そもそも教師の暴力や暴言は桜宮高だけの問題ではない。短絡的な入学制限ではなく、学校再生に向け生徒や教員も納得できる解決策を模索してほしい。