所信表明演説 イメージ先行では困る


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 安倍晋三首相が第183回通常国会で所信表明演説を行った。政権に復帰して再度の首相就任後、初めての国会演説となる。経済、震災復興、外交・安全保障、教育の4分野での危機突破を強調し、その中でも経済再生を最大かつ喫緊の課題に挙げ「強い経済を取り戻す」と強調した。強い決意は感じるが、財政健全化の説明などが不十分で、イメージだけが先行しているとの印象は拭えない。

 金融緩和、財政政策、成長戦略の「三本の矢」で経済再生を推進し、緊急経済対策で成長戦略を強化するという。しかし巨額の財政出動は効果が長続きせず、借金の山をさらに築く恐れもある。海江田万里民主党代表は「強い経済の具体策は劇薬でもある。副作用や落とし穴への手当てができているのか」と述べた。この疑問に安倍首相はどう答えるのか。
 演説では「財政出動をいつまでも続けるわけにはいかない」との問題意識を表明した。財政健全化については「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を目指す」と記しただけで、具体策は示していない。
 生活弱者に対する姿勢も気に掛かる。社会保障の基盤を安定させるためにも持続的な経済成長により富を生み出すことが必要だという論理を展開した。しかし政府は生活保護費の基準引き下げを決めている。より多く持つ者から持たない者への富の移転という社会保障が持つ再配分機能が働くのかという不安がつきまとう。国民に丁寧な説明が必要だろう。
 外交・安全保障では尖閣諸島に関連して「国境離島の警戒警備の強化」を挙げ「領土・領海・領空は、断固として守り抜いていく」と表明した。威勢はいいが、いたずらに日中間の緊張を高める方向にかじを切るべきではない。安倍首相は第1次安倍内閣の2006年、日中関係改善で訪中し、戦略的互恵関係を確認した。習近平総書記は先日、安倍氏の当時の役割を高く評価した上で「再び首相になって新たな中日関係に大きく貢献することを期待する」と述べた。強行姿勢ではなく関係改善に努力すべきだ。
 「憲法改正」など首相の持論にかかわる分野は封印された。さらに原発や環太平洋連携協定(TPP)など重要課題への言及が一切ないのは不可解だ。逃げずに安倍政権の立場を明確にすべきだ。