首相改憲表明 何のための憲法か熟議を


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 安倍晋三首相は衆院本会議で、憲法改定の発議要件を定めた憲法96条を緩和する方向で改定に着手する考えを表明した。

 自民党は昨年4月、戦争放棄をうたった憲法9条を見直し、自衛隊を「国防軍」に改めるほか、天皇を「元首」などと明記する新たな憲法改定案を決定している。
 改定手続きを緩める先に、恒久平和主義を掲げる「平和憲法」を骨抜きにする意図があることは明白だ。強い危惧を抱かざるを得ない。
 国会答弁で首相が、憲法改定に具体的に言及するのは極めて異例だ。所信表明では改憲には一言も触れず、「タカ派色」を封印していただけに唐突感も否めない。
 首相をはじめ自民党内には、当面は景気回復を最優先して参院選勝利につなげ、「ねじれ国会」を解消した上で改憲に道を開く―との青写真があるとされる。
 首相がタカ派色の封印を早々と解いて改憲に前のめりの姿勢を示す背景には、同じく改憲を掲げる日本維新の会との連携を探る意図があることは疑いない。裏返せばこれは、衆院選での改憲派大勝のおごりであり、首相の宿願である改憲の機運を逃したくない―との焦りとも言えるだろう。
 96条は改憲について、衆参両院の「総議員の3分の2以上の賛成」で国会が発議し、国民投票で「過半数の賛成」を得なければならないとする。
 このように通常の法律よりも厳格な改正手続きを定めた憲法は「硬性憲法」と呼ばれるが、世界のほとんどの国が硬性憲法であることにも留意する必要があろう。
 安倍首相は、発議要件を「過半数」に緩和したい意向だが、改憲の“本丸”とされる9条ではなく、96条を前面に出していることにも注意が必要だ。改憲に対する国民の心理的ハードルを低くした後、なし崩し的に権力者に都合のよい改定をしていく狙いが透けて見えるからだ。
 自民党の改憲論議には、敗戦後に占領軍に押し付けられた憲法を改めなければならない―という民族主義的な思想が色濃く映る。そこには憲法の本来の目的であり、国家権力を制限する立憲主義の観点が著しく欠落していると指摘せざるを得ない。
 本来であれば、憲法順守義務に沿って、憲法を生かし切ることが先決であるはずだ。首相は改憲に前のめりになるべきではない。